つい先日、作家の井上ひさし先生がお亡くなりになりました。
井上ひさし先生の作品とライトノベルを結びつけるのはいくらなんでも強引、というものでしょうし、浅学な担当には、井上先生について語るべきテーマも見識もないのですが、井上先生の作品でも、一冊だけ、本稿に関係がある (かもしれない) 作品がありました。
(図1)
大洋ホエールズ (現:横浜ベイスターズ) に盲目ながら天才的な野球の才能を持つ選手、田中一郎が入団し、盲導犬チビの助けを借りてプロ野球で大活躍する、という話です。
ストーリーの説明だけでは、ライトノベルと言うにはもちろん牽強付会もはなはだしいのですが、この話は三人称ではなく、主人公である盲導犬チビの一人称で語られていきます。 作中でチビが人間の言葉を話す、というわけでもないのですが、登場する人物たちに”子犬”にもかかわらず冷静につっこみを入れたり、主人である一郎以外の野球選手や試合内容について分析したりするのは、シュールでもあり奇妙なおかしみがあります。
人間以外の存在が物語を語るのは、特にライトノベル以外にも多く存在しますが、一般小説の部類に属する作品では珍しく、この物語を戯画的にする意味で、語り手を子犬のチビにしたのかと思います。
ストーリーとしては、1979年当時、すでにV9時代も終了していたにもかかわらず、未だにジャイアンツ中心に動いていたプロ野球に対する強烈な皮肉に満ちており、アンチ・ジャイアンツという言葉がまだメジャーではなかった時代には珍しかった作品かもしれません。つかこうへい先生の「長嶋茂雄殺人事件」あたりと読み比べてみるのも面白いと思います。
次回の話は未定です。
(担当 有冨)