まんだらけ 小倉店

L.S.C in 小倉 〜ライトノベル普及委員会〜 【第4回】「キノの旅」と星新一

「キノの旅」と星新一

ここ最近、「ショートショートの神様」こと、星新一先生の再評価がまた著しいようです。
昨年、新井素子先生編集による「ほしのはじまり」(図1)

(図1)

が発売されたり、”唯一の弟子”と認められた作家・江坂遊先生のショートショート作品集(図2)が発売されたりしています。

(図2)

星新一の作風の特徴をあげるなら「寓意的・不変性・唯一無二」というところでしょうか。1001編以上ものショートショートを
書き上げたその創作意欲もさることながら、人間性を深く鋭く描いた内容、製作後何十年経っても古びない普遍性、
そして、これだけ広く読まれているにもかかわらず、まったくといってもいいほど後継者・フォロアーが出てこない点も特色といえます。
(江坂氏は”弟子”であり、ショートショート作家ですが、その作風は星作品とはかなり違います)
しかし、意外というか必然というか、星新一の向こうを張れるといえる作家・作品が、ライトノベルには存在します。

時雨沢恵一「キノの旅 -the Beautiful World-」です。(図3)

(図3:キノかわゆし!)

数あるライトノベルの中でも、屈指のヒット作として知られていますが、その大きな理由にはやはり
「ライトノベル本来の読者である子供にもわかりやすい寓意性」
「他方でひねくれた大人にも耐えられる不変性」

が評価されているからだと思います。
(もちろん、黒星紅白氏のイラストも間違いなく大きく貢献していると思いますが)

「キノの旅」には、寓意性や普遍性といった抽象的な部分だけでなく、具体的にも星作品との共通点、あるいは影響を受けている
と思われる部分があります。
たとえば主人公の名前”キノ”ひとつとっても、本名ではないことや、ドイツ語の「映画」を意味する言葉からとられていることなどから、
主人公の匿名性や、狂言廻しとしての役割が強調され、星作品に多く登場する”エヌ氏””エフ氏”を連想させます。
また、主要人物以外はほとんど名前が出てこないところ、悲劇的あるいは皮肉めいた結末が多い(しかも登場人物はそれが悲劇や皮肉であることに
キノを含めて気づいていない)ところも、いやおうなしに”星新一的”です。

しかし星作品との共通点を論じるなら、まず「キノの旅」がショートショートではない、という反論も当然あると思います。
たしかに、多くの星作品に比べて、「キノの旅」の一編一編はやや長いですが、これはキノの旅が異世界を舞台にしていることと、
さらにその異世界のなかで様々な国を転々としているので、話ごとに舞台設定の説明が必要なので、やや長くなるのは仕方がない
と思われます。
また、巻頭のカラーページのみで完結する話なども掲載され、これなどは真に「ショートショート」と呼べるでしょう。

もっとも共通点だけでなく、差異も当然のことながら多々あるのですが、最たるものは「あとがき」でしょう。
星先生はあまりあとがきを好まないタイプだったようですが、時雨沢先生は好き、というよりあとがきで遊ぶのが大好きのようで、
ファンのあいだでも楽しみの一つになっています。
ただ、あまりにも趣向が凝っているため、読者のなかでもあとがきが見つけられないという人も存在するようです。
というか存在していました。以前店でそういうお客様がいましたし…。

「あとがきで遊ぶ」ということの意味がわからない方のために、本の一部だけお見せします。(図4)

(図4:新刊だと帯で隠れてます…)

あまり多く見せてしまっても、未読のかたへがつまらないと思うので一冊だけ。
このほかにも趣向を凝らしたあとがきが多数あります。
この遊び心は、私生活では奇矯な性格だったという星先生の稚気とやはり通じるのかもしれません


今回は、キノシリーズが全巻入っているので、ちょうど紹介できます。
担当的には「学園キノ」もオススメです。

次回はたぶん「タイラー」です。

(担当 有冨)

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