古いラノベばかり続いていたので、今回は現在刊行中のシリーズです。
(図1)
富士見ミステリー文庫でデビューした作者・師走トオル先生にとっては初のファンタジア文庫作品になります。
戦記ものにおいては、異なる陣営にそれぞれ主人公を置く、という方式は古今東西よくつかわれるやり方で、この作品においても、二つの陣営にそれぞれ主人公と呼べる人物が配置されています。
(図2) (図3)
もう一人は、そのペールセール王国に反乱をおこす反乱軍の指揮官、ジェレイドです。(図3)
しかし、いわゆる過去にあった複数主人公の戦記ものとは違い、この二人の描写には平等ではなく、かなり差があります。
片方の騎士・アレスにはこれでもか、というほど過剰に英雄としての活躍をさせ、いわゆる”戦記ファンタジーの主人公”の王道を歩ませています。
一方のジェレイドについては、”反乱軍の指揮官”というヒロイックな設定を無視するかのように、肩入れした描写が少なく、主人公というより『悪役』のように描写されています。 この手のキャラは後半になると優遇されていくのが常ですが、この話では進めば進むほど、英雄・アレスが際立って行き、一方ジェレイドには陰惨な策略の描写が割り当てられていきます。
ライトノベルの読者の大半(とまでいかずとも半分以上が)が若者−10代−であることを考えれば、この主人公二人の差異は、ややうがった見方をすれば『マーケティングの産物』といえるかもしれません。 少年マンガの主人公のごとく無敵の活劇を行うアレスが若い読者を引き込み、さらにジェレイドが引き立て役になり一層際立つ、というやり方であり、この辺りはなかなかに計算高いキャラの配置といえます。
ただ、オッサンラノベ読みの担当としては、『少年マンガ』アレスより、『軍師キャラ』ジェレイドのほうがかなり好みだったりします。
軍師キャラにもいろいろいますが、いわゆる『軍事的才能』ではなく、『猜疑心の強さと悪辣さ』によって敵を打ち破っていくという設定は、才能ではなく人柄によって物語を紡いでいくという、最近のライトノベルの特徴にも大きく合っているように思います。
現在6巻まで刊行されていますが、まだまだ物語は半分も終わっていないような印象です。ファンタジア文庫では稀な大長編として長く続いて楽しませてほしいと、いちファンとして勝手に願っています。
次回の話は未定です。
(担当 有冨)
※この記事は2009/7/8に掲載したものです。