岩井の本棚 「マンガにでてくる食べ物」 第16回 |
「おからずし」
今年の終戦記念日もただひたすらキンキン熱い一日でしたが、考えてみれば来年で戦後60年です。 戦争の記憶はどんどん薄れつつあるなと感じますね。自分が子供のころは、戦争で片腕を失ったおじいさんが近所にいたし、どこに出征して大変だった、とか、戦後の闇市の話が普通に親戚の集まりで会話に出てきたような。 でも大戦時に軍人さんだった人は普通に考えて、もはや80歳以上と高齢なはずです。
戦争の話を口伝で聞くことももはや薄いのも無理はありません。
しかし80を過ぎてなお元気な水木しげる先生の自伝「僕の一生はゲゲゲの楽園だ」には、数十年前の戦争の記憶が、きちんと次世代に伝わるくらいの克明さで描かれています。
僕は思うにこの作品は中学くらいの歴史の授業に副読本でつけても良いくらいだと思うのですが、どうでしょうか?
もちろん戦争の話なので、上官にぶん殴られたりいきなり仲間が自決させられたり玉砕を覚悟させられたりする日常で悲惨なんですが、 水木先生の記憶では「とにかくいつでも腹が減っていた」とのことで、「人間は食べるために生きていくものなのだ」という達観を感じさせます。
復員後に東京へヤミ米の買出しに出かけて、ヤミ市で食べたと言う「おからずし」が今回の食べ物です。
一回頭を通るところで「ご飯の上におからがのっているものだろう」と思うのですが、そんなものがうまいはずがありません。
そうではなく酢飯の代わりにおからを用いた寿司です。
(図1)
味については触れられてはいないのですが、もちろんうまいものではないでしょう。
水気もあじけもない豆腐の上に魚が乗った姿。それが想像するおからずしです。
おからというのは米と違い、何も味付けをしないで食べれるものではありません。
食感も良くありません。
しかし当時は味は二の次、腹を膨らませるためなら何でも食べた時代です。
もともとおからずしはイワシやサバのなれずし(鮒ずしのような保存食)に近いものだったようです。
今の若い人ではひょっとしたら、おからを知らない人もいるかもしれません。
豆腐や豆乳を作るときに出来る大豆のしぼりかす、それがおからです。
昔から豆腐を作るのには大量のおからが副生物で出来てしまい、その処理には頭を悩ましていた、ということもあり、今でもおからはタダみたいな値段で買えます。
江戸時代が舞台の異色剣豪伝「無限の住人」でも貧乏人の食べ物の代表で、おからが登場します(図2)。
雪花菜・・・と名前を変えていますが、昔も今も、貧乏人の友だったのは間違いありません。
(図2)
粗悪な小麦粉で作ったスイトン、さつま芋や大根に米粒が張り付いているという主客転倒の芋飯や大根飯、 本来捨てるところだったさつまいものつる、米がほとんど入っていないスープのような雑炊、トウモロコシの粉で作ったパサパサのパン、 フスマだんご、うどんの代わりにトコロ天で作ったうどん、動物ではネズミや虫、 カエル、イヌなど・・・またこの世代の男性ではカボチャやさつまイモを子供のころに食べされすぎ、一切箸をつけない方も多いと聞きます。
ちなみに・・・ですが、上記の戦中食の補足を以下に。
すいとんは各地の競輪場、競艇場などの食堂でも食べれますし、築地ですいとんが名物の喫茶店もあります。韓国でもスイトンは人気だそうです。
大根飯は「おしん」で有名になりましたね。
ヒトに聞いた所、干した大根を水で戻して使うのでひどく臭マズいものだったらしい。
さつまいものつるは炒めて食べると意外と美味しいそうです。
炒めてもぬるっとしているのが特徴とか。
雑炊やトコロ天うどん、は低カロリー食に発展して今も生きています。
カンテンを主原料にした麺類、は腸もきれいになるしカロリーも低いしで脚光を浴びてますね(ただしこれだけで一週間すごすとぶっ倒れます)。
虫はセミ、甲虫のサナギや幼虫、イナゴ、バッタ、タガメ、ゲンゴロウ、と、羽虫以外は何でも食べたみたいです。
カブトのさなぎは火であぶって食べるらしいですが脂こくてすごくうまいらしいですよ。
余談ですが、うちの親父のする「昔はひもじかった」話ですごい好きなのが、コドモのとき、ナマズを捕まえたのですがすぐには食べずに、 太らせてから食おうと思って池に放しておいたら洪水でナマズが流されてガッカリした・・・というのと、山でウサギを捕まえたのですがすぐには食べずに、 太らせてから食おうと思って家で買っていたらネコに盗まれてガッカリした・・・というのがあります。
何でも洪水のニュースを聞くたびにあん時のナマズは惜しかった!と確実に思い出すと言うし、 ネコにウサギを盗まれて数年間はネコを見るたびに怒りのあまり追いかけ回したそうですから、食べ物の恨みは深いといわざるを得ません。
しかしなんでいつも「太らせてから食おう」などと昔話に出てくる悪いじいさんのような欲深な悪巧みをしていたのか。
わが父親ながら何だか胸がキュッと締付けられる切ないトラウマです。
ちなみに今回、戦中戦後の貧窮を最もリアルに描いた「はだしのゲン」「火垂るの墓」は涙もろい自分は今回パスしました。
水木しげるの「僕の一生はゲゲゲの楽園だった」と「無限の住人」は本店にて取り扱いをしております。興味のある方はどうぞ。
※この記事は2004年8月28日に掲載したものです。
(担当 岩井)
(担当 岩井)