岩井の本棚 「マンガけもの道」 第18回 |
リストラと失踪と犬と猫
(図1)
少し長渕「ウオータームーン」ぽい
(図3)
あほだらけ・・・ええそうですとも
再就職のかなわない年齢の方達が、なれないコンビニ店員やガードマンなどの時給、 日給制の仕事していても、もはや誰もふしぎに思わなくなりました。
おもえば十年前は、高校を卒業後、フリーターになるのでも驚かれたくらいです。
それどころか今は、高校卒業して、何もしない、という選択肢があるくらい。
進学するでもバイトするでもなく、何か目標があるでもなく、ただ何もしない。
当然親の負担は増えるわけですが、親も子離れしていなく、子供を経済的に切り離して自活を強制させるだけの度胸もないから、 なんかそのまま働かない子供が家にいる・・・という状況に陥っている家庭も多いのでは。
不況なのはマンガ界も同じです。
何しろワンピース、ブリーチ、ナルトにいちご100%、とアニメ化タイトル目白押しのジャンプですら、 最盛期の半分しか雑誌が発行されていないのです。単行本売上も縮小傾向。
(図2)
ていうか遍路はビール飲まんだろ
(図4)
まず鼻水ふこうよ、まず
(図6)
便所の横くらいいいじゃん
(図5)
姑口調バリバリ
ですが、じゃあ、70年代、80年代、はては90年代、さらには00年にデビューした人で、どれだけ今、作家として残ってる? と言う問いに対しては暗い答えしか出てこないのです。そう、ほとんど残っていないのです。
若い子はコミックIKKIやコミックビームの路線でデビューしようと考えがちなのですが、あれはたぶん、5年後食えてないと思う。
最初だけカッチョよくても、実作業に磨耗してくうちに、いずれ若い才能に絶対追い越されるんだから、あの路線はあまりおすすめしません。
たとえば星里もちるとか北崎拓のポジション、って、アレいいと思うんですよ。
少なくとも若い子が今目指す作家、に上げるタイプではない、いっちゃなんだけど悪い意味でのベテランなのですが、デビュー以来途切れることなく連載持ってる。
ブレイクはしないけど、連載はある程度の巻数までいつも長持ちする(7巻前後まで)、文庫化されやすいので継続して印税収入が見込めそう・・・とかね。
(図7)
泥棒にも三分の理屈ですか
(図8)
終止謝りっぱなし
でも星里もちるは背景もマッ白くていつもおなじ○○で、相手も同じ○○○で、女の子がなんだかいつもエキ○○○○○○なのまでおなじだけれど、 たぶんいずれ小学館文庫でズラズラ並びそう・・・という感じですか。
前置きが長くなりましたが、黒咲一人って作家、知ってますか?
代表作は「ハスラー・ザ・キッド」と「無頼風」。タイトルしか知らない。
読んだ事ない、という方が大半だと思います。僕もそうです。
70年代にデビューし、近年は単行本にならない数々の仕事や読みきりなどで生活費を得てきたが、 ついに2003年、どこからも依頼の電話がなくなった・・・彼はマンガに見切りをつけ、死に場所探しに、四国の88箇所遍路めぐりの旅に出た・・・。
「実録!リストラ漫画家遍路旅『55歳の地図』」(図1)
リストラ漫画家もなにも、ただ注文がこなくなったのをリストラと称してるだけなんですけどね。
これによるとフリーランスの仕事をしている人は、注文がこなくなったらリストラ状態というわけか。辛辣な表現ですね。
(図9)
長年の噂を裏付ける驚愕作
もうほんと、ワケわからないんです。
仕事がなくなったから、じゃあ全てを捨て遍路旅にでよう、に結びついたのかも分からないし、 物語中取り上げられるのは、ホームレス生活スレスレの遍路旅ばっかで、せっかくまわった寺にはなんにも触れてない。
ガスコンロの話なんかしてる余裕あったら、巡った霊場の話しろ、と思うのは僕だけですか?
それゆえか、何が言いたいのかぜんぜん伝わってこないのですが、いかにも幸薄そうな、 ビンボーが肩からのっしりとおんぶしてそうなヤツレ顔の男一匹・黒咲一人さんの情けない姿見るにつけ、 ああ、年はとりたくないなあ、ホームレスにはなりたくないなあ、四国の人はやさしいなあ、と是が非でも感じさせてくれます。
裏表紙に「政府広報」って入っていてもおかしくないよ。それくらい「働かなくちゃヤベェーよ」と強く感じさせる啓蒙コミックです。
(図10)
器用に受話器持つよね
(図11)
奥で犬がコピーしてるよ(かわいい)
55歳、といえばあなたのお父さんくらいだと想定して下さい。
お父さんがコワれた3輪車をゴロゴロ押してたり(図2)、 原稿を売ろうと「あほだらけ」なるマンガ喫茶にいってみたり(図3)、 テント張る場所さがしてウロツキまわったり、 ふとであった同行者にラーメン作ってもらって鼻水タレながら食ったり(図4)かと思うと同行者といやな雰囲気になったり(図5)、 便所の脇にテント張って叱られたり(図6)、墓地からお供え物ギったり(図7)、 親切にしてくれる人たちに「スンマセン」と15ページに一回くらいペコラペコラ頭下げてたりする(図8)のを想像してください。
そんなおとうさん見るのはいやだ!
とにかく、ダメフリーター男4人くらいで居酒屋に行き、なんか男としてどう生きるかみたいなくっだらない話の展開になったら、 あなたは懐からこの本を3冊出し、残りの3人に手渡して「御託はいいから、これ読んでこい。話はそれからだ」というだけですむ、という点では非常に便利なマンガです。
この本コンビニでも売ってますから、今から飛び出してっても読めますよ。
同じような話題の著「失踪日記」(図9)吾妻ひでおに比べると、ユーモアがないだけ、剥き出しの情けなさがピリピリとイヤな感じです。
仕事があったのに全て投げ出して逃げた人と、仕事が一切なくなり、あとがなくなって逃げ出した人の差でしょうか。
ともあれこの本で収穫だったのは長年の謎が解けたこと。
それは「高橋よしひろは犬だった」ということです。
僕はかねがね、主人公が人間に養われてない犬で、しかも友達も犬、敵も犬、 敵の組織も味方の組織も犬のみで構成されている、という「銀河伝説WEED」を見るにつけ、 これは読者対象が犬か、もしくは作者が犬かでないと、成り立たないのではないかとおもっていました。
少なくともふつう、人間は犬たちの組織に思いを馳せたりしないし、 犬がイヌ語で意思の疎通を図る「WEED」は、誰かイヌ語を訳せる人がいなければ成立不可能と考えていました。
(図12)
こんな萌えな絵も・・・
(図13)
ネコが描いてるんなら×2萌え
ですが、本書「55歳の地図」で驚愕の真実が、ついに暴かれました。
これです(図10)。
やはり高橋よしひろ氏は犬だったのです!! それどころかアシスタントも犬でした!!(図11)
ちょっと待て「僕の犬僕のウィード」で本人らしき人間出てきてるぞ! という意見や、著作の自画像、人間じゃねーか、というツッコミに対しては「アレは影武者」「人間が自画像を犬にする例があるくらいだから、 犬が自画像を人間に描いてもおかしくない」(例・冨樫義博)と反論したいです。
だいたい最近は、原作者も猫、作画家も猫、と言うマンガだってあるくらいです(図12・13)。
これ見たときは、ネコのあのポニポニした手でこんなカワイコちゃんが描けるなんて、 ネコも進化したよね、むかしイジワルしてゴメンね・・・と暖かい気持ちになりました。
高橋よしひろ氏は犬。ああ、長年の謎が解けて、今は非常にうれしいです。
っていうか・・・犬に原稿のチェックしてよ、って頼まれる黒咲一人氏の寂しさって、なんなんだろう。アシスタント犬以下ですか?
「55歳の地図」「失踪日記」は本店2においてあります。
まだ働きたくねーけど、どーすっかなー、とお考えの諸兄は、本店2へ急げ!
※この記事は2005年5月26日に掲載したものです。
(担当岩井)