岩井の本棚 「マンガけもの道」 第15回

長い頭と同じ顔


(図1)
ヤングサンデーみてビックリしました。

2ちゃんのでの経緯がそのまま単行本化されヒットした「電車男」が何誌か同時にマンガ化されてる、ってのは知ってたし、 ヤンサンでは原秀則が作画してるのも知ってました。
原秀則の絵、というものなんとなく理解してました。
でもまさか電車男が告った相手のエルメスって人のアタマがあんなだとは思ってもみませんでした。
見てくださいこの頭。
面長では済まされないほどの長さです(図1)。
中谷美紀似、というフレコミですが、中谷美紀の頭はこんなに長くないでしょう?。

携帯電話は開くと20センチくらいのはずなので、比するとこの人の顔は50cmくらいある。
50センチというと女の子の身長の約3分の1。
つまりエルメスさんは3頭身です。
SDガンダムよりは頭身があるけれどもキン消しよりは頭身がない。
ピンキーストリートみたいな造形で、それはそれでかわいいですが、背中にマルCとか登録商標がついてそうですね。
まあ全頭身で描かれているシーンがきちんとあるのでそれは否定されるのですが、 納得いく説明としては、中国の古い映画なんかを無理やりテレビ放送したときに 上下比が狂って顔が細長くなる現象。アレかもしんない。

ただこの長さは、墨田区あたりの下品なキャバ嬢の前髪とか、北区あたりの下品なコギャルの鋭角眉毛とか、 深田恭子のまつげのカールと同じで、よかれとおもってやってるうちにうっかりやり過ぎて取り返しつかなくなってしまった感があります。
たぶんあと数号するともっともっと長くなって、アシスタントたちも、なんかなげくないですか? と疑問を呈しているのかもですね。

で、頭、で思い出したのでついでなんですけど、何を描いても同じにしか見えないってマンガ家も多いですよね。
たとえばあだち充などは「みゆき」から「KATSU」に至るまで主人公やヒロインの顔がほとんどパターン化してますが、 逆に言えば、同じようなキャラ造形を保ちつつも、ストーリーや心理描写で読者をひきつけ、常にハイレベルな作品を提供できるレベルの高さを感じます。
キャラ造形が同じようにみえても、それを支える設定が完璧ならば、全て違う物語として楽しめる。こんな作家はあだち充のほかにいないのではないでしょうか。

・・・と思ったら、いた。いました。
キャラ造形が同じで違う物語として楽しめる作家がもう一人。山口正人先生です。
何しろマジックですよ、山口正人の同じさは。あだち充の場合は主人公達が高校生くらいの少年少女だからまだしも、 山口先生の手にかかると、タクシー運転手、ホスト、ヤクザ、弁護士、はては劉備玄徳までもが同じ顔になってしまうのですから!

すばらしいことに、この論理によると、あなたが昨日乗ったタクシーの運転手が劉備だったり、 ヤクザが歌舞伎町のホストでナンバークラスだったりすることに齟齬をきたさないのです。
法廷にホストが立っていることも矛盾しません。
ヘタしたら曹操と争って蜀を建国したのがタクシー運転手だったのかもしれん。

信じられないのも無理はないと思うので下記をご覧ください。
どれがヤクザでどれが劉備か区別つきましたか?(図2〜図6)


(図2)

(図3)

(図4)

(図5)

(図6)

ちなみに左からヤクザ、弁護士、ホスト、タクシー、劉備です。

兄弟かよ! って思っちゃうくらいにそっくりで、しかも似ているのはともかく造形が従来のマンガにあまり出てこないくらいワイルドな顔立ちばかりです。
たぶん乳首からくねくねした毛がモジャーって生えてるだろうし、体全体からニンニク臭もするだろうし、 たぶん子供のことは全部「ぼうず」って呼びそうな気がする。
でもなんだか危険な匂いがするワとかいわれて、ヘボ系マダムに好かれそうな雰囲気も。
まーでも僕は、こんなオッカナイ人が義理の親父になったりしたら、たぶん恐くて家には一歩も入らないです!

しかし何がすごいって、じつは全員同じ顔してるって部分じゃなく、この初期設定が守られるのはほんのわずかで、 弁護士は組同士の抗争に巻き込まれるし、ホストは組同士の抗争に巻き込まれるし、ヤクザはやっぱり組同士で抗争してるし、 劉備も徒党を組んで抗争してるし、比較的穏健なはずのタクシー運転手までヤクザを乗せてみたりと、 一巻の途中からみんなヤクザマンガになってしまうことです。
チンピラが刺され、ドスが舞い、拳が飛ぶ、と、三国志を読んでいたはずなのにいつのまにかヤクザマンガになっているという驚きはどう表現したらよいのか。
ヤクザの幹部の名前が曹操とか呂布になっているだけです。

ただ不思議なのは、山口正人のこういった著作は全部原作つきなんですよね。
原作もほとんど別の人。なのに最後はいつもヤクザ物語になる。
不思議でなりません。ある意味すごい作画家ですよ。たぶんあれです、「のだめカンタービレ」とか「NANA」とか、 果てはメンズラブの「春を抱いていた」でさえ、山口先生の手にかかれば最終的にヤクザものになるだろうことは自信を持っていえます。

そんな山口正人先生のマンガは本店2においてあります。
ホストと弁護士とタクシー運転手と劉備が好きで、なおかつヤクザ業界にもなんか興味あるなというマルチな才能をお持ちの諸兄は本店2へ急げ!

※この記事は2005年3月15日に掲載したものです。

(担当岩井)

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