岩井の本棚 札幌店レポート第2回 |
唯一無比の完成度「ガンダム・オフィシャルズ
宮沢章夫氏のエッセイでこんなことが書いてありました。映画「バルジ大作戦」を改めて見て、バルジと呼ばれるこの作戦はドイツ軍の補給路を断つための作品なのだと、初めて気が付いた。
子供の頃にもこの映画を見たはずなのに、当時の自分は「バルジ大作戦」のどこを見ていたんだろうか?
そう、戦車のカッコよさや勇ましい兵隊しか見ていなかったのだと改めて気がつかされた。子供には作戦を理解するのはムリ。そんな話でした。
僕にとって、また多くの20代前半から30代の男性にとっては、ガンダムがそれに当たるでしょう。
小学生の頃は、ジオン軍のモビルスーツさえ出てくれば喜んでいました。 再放送のガンダムを見た翌日に話されることはモビルスーツの話ばかりであり、その回の話の展開など話す子供はいませんでした。
小学生が予備知識なしで見るには、ガンダムはあまりに難しい物語です。
たとえば小学生でも「ジオンは敵だ」という事は知っていますが、 じゃあなぜジオン公国が連邦政府に反旗を翻すようになったのかは、小学生には説明できなかったはずです。
「オデッサ降下作戦」とか作戦名をいわれても、その内容を誰も理解してませんでした。やっぱり子供には作戦はムリです。
ガンダムの設定や背景を覚えきらないうちにこんどは「Zガンダム」が始まり、 今度はティターンズだエゥーゴだカラバだネオジオンだと、まるで天龍がSWSを立ち上げた直後のように団体が乱立してて、 本放送時、バカ中学生ばかりのわが母校では誰もストーリーを理解していないのみならず「ところでカミーユっていい奴? 悪い奴?」という情けない会話が飛び交っていたのが思い出されます。
ガンダムをきちんと咀嚼したい、と思った人は、ガンダム書籍を買い求め、その解説やストーリー紹介を読み返し、 やっと宇宙世紀の時代背景が理解り、ビデオレンタル屋に走って全話鑑賞、感動して信者になる、というのが一昔前のガンダムマニア誕生のいきさつでした。
ただ多くのガノタさんたちはそこから極端に右傾化してしまい、 ついこないだまでミノフスキー粒子散布下における有視界戦闘・・・とかいわれても、子供には分かるはずがないでしょう!と怒ってた人が、 一転して「ああ、カラカル隊に配属された機体ね」とか「実戦投入がもっと早かったらジオンが勝ってたのに」とか 「戦いは数だよ、兄貴」などと一般人にはサッパリわからない言動や引用をしてしまいがちです。
しかしそれだけ、初代ガンダムの知識は汎用性が利き、どんなオタク世代でも共通する言語になっているともいえます。
ゴジラやウルトラマンの知識が現在の30代を最後に隔絶してしまっていることを考えると、ガンダムの大きさを感じずに入られません。
そんなガンダムの知識の集大成が2001年に講談社から発行された「機動戦士ガンダム公式百科事典・ガンダムオフィシャルズ」です。
定価15,000円・900ページ・重量3.5キロ・索引項目6600にして160万字という圧倒的ボリューム。
皆川ゆかの著述と編纂への一貫した姿勢。集大成というよりは網羅的ともいえる知識。
エピソードや作戦は参加社名はもちろんのこと、 部隊名まで状況を克明に記述など、とにかく語るべき点はたくさんあるものの、ガンダムファンであれば、そんな云々はたいした事ではないです。
手にした瞬間にこの本のすごさは分かると思います。
豪華本、高い本、立派な装丁の本はたくさんあります。
しかし単純に内容量が金額を凌駕し、しかも買った人の多くが「かなわない」と感じる本など、そうあるものではありません。図版ベースではなく、記述と編纂重視の本では特に、です。
僕も買ってしばらくは、読み終えてしまうのが怖くて、じわりじわりと舐めるように読んだ覚えがあります。そういう気分にさせる本です。
この本がすごいところは、刊行後5年を経ていまだに売れ続け、現在も増刷され続けている点でしょう。
後世に残されてこそ意義がある本なので非常に喜ばしいことです。
おしむらくは2005年ごろを予定していた0084年以降のオフィシャルズの刊行が、全く音沙汰なくなっていることでしょうか。
所有欲を書きたてるこの「機動戦士ガンダム公式百科事典」。7350円にて札幌店で販売中。
※この記事は2006年2月18日に掲載したものです。
(担当岩井)