岩井の本棚 「本店レポート」 第18回 |
殺伐としたムーミン
(図1)
(図1)
ムーミン谷の住民は争いごとを好まず、自然と共生して文明化を望まない。
みているだけで心のトゲトゲがなくなるようなストーリーに、名倉靖博の柔らかいタッチの背景が見事にあっていて忘れられない作品です。
平成版のムーミンは「うぶ毛が生えてる」描写がありましたが、よく考えるとアレはバーバパパのような軟体動物じゃないよ・・・と主張していた気がしますね。
しかしいま30〜40代のヒトにとってはムーミンといえば「カルピスまんが劇場」のムーミンでしょう。そうアレです、ムーミンの声が岸田今日子のヤツです。
この昭和版ムーミンは見た目はいわゆるカバ系、軟体系で、色も緑なので触るとひんやりと冷たそうな、 なんというか粘土、ゴムまり、もしくはスライムっぽい雰囲気もありました。殴るとゴポンっていいそうな(図1)。
余談ですが、そういえばおもちゃのスライムって、みんなが汚い手で触りすぎたせいか、 気がつくとみんなやや薄汚く固くなって、ドラえもん7巻にでてきた、のび太の巨大ハナクソみたいなナリになってませんでしたか(図2)?
安いガチャガチャ版スライム(欲しい!)が特にそうでしたね。
僕は昭和版リアルタイムで見てた世代ではないのですが、再放送で見た覚えはあります。 原作のトーベ・ヤンソンが自分のイメージと違う・・・といって怒った話で知られる本作ですが、 そのイメージとは何かというと、ムーミンたちは人と争うことをせず、機械化や経済化を受け入れない社会なのだというのが原型としてあったそうです。
じっさいに平成版のほうはトーベ・ヤンソン自身が企画に参加しているので、おおむねその理想が達成できているのですが、昭和版はムーミンたちがあまり善良ではないというか、人間臭い描写もおおいです。
しかしもっともっと殺伐として人間くさいムーミンが存在します。
それは朝日ソノラママンガシリーズのレコード版「ムーミン」。
よくあるこども用レコードのムーミンですが、ジャケットに収録されているムーミンがどうにもムーミンぽくありません。タイトルは「放火犯人はだれだ?」。
このタイトルだけで「ということはあのムーミン谷に放火魔がいるのか、なんということだ」と頭を抱えるピュアメンもいるかもしれません。
(図3)
(図5)
(図7)
(図8)
(図9)
冒頭からしてムーミン的でなく、ムーミンパパの猟銃を勝手に持ち出し、
谷でブッ放そうとたくらむムーミン(図3)。それをミイに見つかって、ミイはワシの巣めがけて玉をぶち込む。
ワシが住んでるんだぞと注意するムーミンに大丈夫大丈夫といって弾をブッ放つ。
全然温厚じゃない出だしですね! 全体的に白人的発想です。
巣を破壊されたワシがムーミンを襲い
猟銃を勝手に持ち出したことがムーミンパパにバレ「ムーミン おまえはパパをうらぎったね!」(図5)とコワモテで迫るパパ。
あれ、パパって温厚なキャラだったはずなのに・・・。ここ最高のコマですね。
一方一緒に釣りにいってもスナフキンばかりが魚を釣り上げて面白くないスニフとヘムレンさんは
などと一文たりともまともじゃない発想&主張でヨソ者のスナフキンを追い出そうとする。
スニフっておとぼけキャラじゃなかったっけ!? この妬みと排撃思想。全体的に白人的発想です。
そうこうしていると村の納屋が火事に。
なんとか火は食い止めたものの、一番最初に火事を発見したスナフキンをいぶかしく思う村人たち。
スニフはスナフキンが放火したんだと言い始め(図7)、裁判にかけて死刑だといい(図8)、 あげくには村民をアジって、「放火犯をぶちのめせ」「やっちまえ」と口々に叫び、 丸太で殴りつけようとデモ行進する始末(図9)。魔女狩りですね。
だけれどなぜか言い訳をしないスナフキン。
死刑! デモ行進! こんな活動的でガツガツ動くスニフ、友人にいたら厄介ですね。聞く耳まったく持ってないし。
ムーミンがスナフキンをかばおうとすると、冒頭にでてきたワシが「納屋で火遊びしてたのはミイだ」と証言。 スナフキンはミイをかばおうとしてたんですな、メデタシメデタシ・・・という話。
最後イイ話にまとめてるけれど出だしから何から殺伐としてて、牧歌的で叙情にあふれた理想郷・ムーミン谷・・・のイメージをことごとく破壊する話です。
だいたいミイが火遊びしてたからといってスニフらデモ隊は「じゃあミイを殴ろうか」とは言い出したりしません。 ヨソ者のスナフキンだから追い出せぶちのめせと言い出したわけです。 よそ者にけしてやさしくない北欧の気質がイヤな感じでリアルですが、そんな裏読みはこどもには不要だよね?
そんな誰相手に作ったんだかよく分からないこのジャケット内マンガ、作者名も分からず謎のまま。 でもこれがひとつ確かなのはあきらかにトーベヤンソンこれ見てないよね・・・という部分。見たらショックで卒倒しますよ。
本来はレコード付ですが、これはレコード欠のジャケのみ。でもジャケにこそ価値がある品物でもあります。本店2のショーケースにて。
余談ですがムーミンはムーミントロールが正式な名前。
じゃあトロールって何やろう?って中学の頃、持ってたRPGモンスター辞典で見たらそこには「トロール:小鬼」とあり、見るもおどろおどろしい鼻長耳デカの西洋っぽい魔物が・・・。
説明には「日光を嫌い、悪臭を放ち、人をいたぶるのが好き」とありました。ムーミンへの信頼が崩れかけた中学時代です。
※この記事は2008年7月11日に掲載したものです。
ワシが住んでるんだぞと注意するムーミンに大丈夫大丈夫といって弾をブッ放つ。
全然温厚じゃない出だしですね! 全体的に白人的発想です。
(図4)
「ざまあみろこんどはめをえぐってやるぞ」という(図4)。エエエッ!? 目をえぐる? なんとかスナフキンに助けてもらう二人。
猟銃を勝手に持ち出したことがムーミンパパにバレ「ムーミン おまえはパパをうらぎったね!」(図5)とコワモテで迫るパパ。
あれ、パパって温厚なキャラだったはずなのに・・・。ここ最高のコマですね。
一方一緒に釣りにいってもスナフキンばかりが魚を釣り上げて面白くないスニフとヘムレンさんは
「やつの針だけに魚がかかるんだ きっとスナフキンはわるいやつにちがいない」
「署長 スナフキンを村から追いはらって下さい」(図6)
(図6)
そうこうしていると村の納屋が火事に。
なんとか火は食い止めたものの、一番最初に火事を発見したスナフキンをいぶかしく思う村人たち。
スニフはスナフキンが放火したんだと言い始め(図7)、裁判にかけて死刑だといい(図8)、 あげくには村民をアジって、「放火犯をぶちのめせ」「やっちまえ」と口々に叫び、 丸太で殴りつけようとデモ行進する始末(図9)。魔女狩りですね。
だけれどなぜか言い訳をしないスナフキン。
死刑! デモ行進! こんな活動的でガツガツ動くスニフ、友人にいたら厄介ですね。聞く耳まったく持ってないし。
ムーミンがスナフキンをかばおうとすると、冒頭にでてきたワシが「納屋で火遊びしてたのはミイだ」と証言。 スナフキンはミイをかばおうとしてたんですな、メデタシメデタシ・・・という話。
最後イイ話にまとめてるけれど出だしから何から殺伐としてて、牧歌的で叙情にあふれた理想郷・ムーミン谷・・・のイメージをことごとく破壊する話です。
だいたいミイが火遊びしてたからといってスニフらデモ隊は「じゃあミイを殴ろうか」とは言い出したりしません。 ヨソ者のスナフキンだから追い出せぶちのめせと言い出したわけです。 よそ者にけしてやさしくない北欧の気質がイヤな感じでリアルですが、そんな裏読みはこどもには不要だよね?
そんな誰相手に作ったんだかよく分からないこのジャケット内マンガ、作者名も分からず謎のまま。 でもこれがひとつ確かなのはあきらかにトーベヤンソンこれ見てないよね・・・という部分。見たらショックで卒倒しますよ。
本来はレコード付ですが、これはレコード欠のジャケのみ。でもジャケにこそ価値がある品物でもあります。本店2のショーケースにて。
余談ですがムーミンはムーミントロールが正式な名前。
じゃあトロールって何やろう?って中学の頃、持ってたRPGモンスター辞典で見たらそこには「トロール:小鬼」とあり、見るもおどろおどろしい鼻長耳デカの西洋っぽい魔物が・・・。
説明には「日光を嫌い、悪臭を放ち、人をいたぶるのが好き」とありました。ムーミンへの信頼が崩れかけた中学時代です。
※この記事は2008年7月11日に掲載したものです。
(担当岩井)