2010/11/22 21:00掲載
まんだらけ 中野店 3F 本店2

【ラノベ/コラム】文庫に溺れる小さな人のはなし web出張版 第5回

先週のGOSICKの記事が実は4回目だということを
突っ込まれました。
と、いうわけできちんと数え直して第5回です。

今回は、久しぶりに担当が「あ。面白い設定」と感じた作品を一冊。


スーパーダッシュ文庫発刊の兎月竜之介著。
「ニーナとうさぎと魔法の戦車」です。
作家の名前もタイトルもウサギ。
この方はどれだけウサギ好きなんでしょうか。

舞台は、大国同士の戦争が停戦してから5年後。
戦争で奇しくも重用された魔法爆弾や、搭乗者の魔力を動力にする魔動戦車。
それらの影響により戦時後生まれた無人暴走を続ける魔動戦車・野良戦車など、ありとあらゆるかたちの様々な戦争後遺症と、人々が戦い続けている時代が舞台となっています。

主人公のニーナも戦争が原因で親に身を売られた戦災孤児であり、年端もいかない頃に人買いの手を経て、戦車を動かすただの動力源としての過酷な人生を歩んでいました。
しかし、当然ですが幼いニーナにその生活を続けることは耐え難く、ある日現状打破のために戦場から逃げ出します。
孤児であるからして身寄りも無く、宛てもないまま放浪していく中自分をこんな状況に追い込んだ戦争、親、はたまた人間にまで抱く強い憎しみだけが折れそうな精神を奮い立たせる感情でした。
しかし、そうこうしている間にも体は汚れ、衰弱し、その日を凌ぐ残飯を漁る毎日にも刻一刻と限界が近づいていきます。
そんな中、ある町を守るひとつの戦車部隊にニーナは出会います。
「首なしラビッツ」と呼ばれるその部隊は、戦争被害にあった少女と女性だけで編成された部隊で、最初は警戒こそしていたニーナも欠員していた砲撃手として迎え入れられたことをきっかけに明るく強かに生きている「ラビッツ」の面々の姿に次第に心を開いていきます。

物語は、人間にすら強く凄惨な憎しみを抱いていたニーナが少しずつ街の人々のあたたかみに触れていく日常を描き、後半における戦争部分でニーナが戦災孤児となってしまった
大元の元凶でもある史上最悪戦犯との猛々しい対決を描いています。
全体を通して、憎しみの連鎖を正しい心と信念をもって、止めようとする少女たちの生き様に清清しさと格好よさを感じた作品でした。

また、“魔法板”という板を歯で噛んで魔法を使うという描写が今までには無い斬新な設定だったので、ちょっと気になったというのもこの作品をチョイスした理由の一つだったりします。
板くわえたまま部下に指示だしとか・・・どうするんだろうか。素朴な疑問です。

新人賞の大賞受賞作品ということもあり、まだまだ荒削りな文章ではありましたが
若い作品ならではの読ませるだけの勢いもあって、ラノベを読み始めた頃の初心に返るには、とてもよい作品なのではないかと思います。

挿し絵も痩せ型の美少女には定評のある
人気イラストレーター・BUNBUNさんが担当されていますので、いつもラノベを挿し絵から選んでいる方にも安心しておすすめできる作品です。

(担当 佐藤ま)

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