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インタビュー2022.12.23

「夕暮れ / 秋の夢」さきふみこ先生特別インタビュー

簡単な自己紹介からお願いいたします
さきふみこです。絵を描くことや作文がすきです。
インタビューなのですが、緊張のために、人を傷付けることや、本心ではないことを言ってしまうのがこわいので、文字で回答します。
さきふみこ プロフィール

2020年に初めてきちんとした漫画を描きました。訓練中です。生活がすきです。やさしい漫画とくらい漫画を描きたいです。

掲載作「秋の夢」が作られたきっかけ

『ボヘミア』vol.2 さきふみこ先生・作『秋の夢』

金木犀が咲いていた頃、もう会えない人の夢を頻繁に見ました。
夏のはじめに死んじゃった祖母や、中学生だった頃の同級生の夢です。
夢から目が覚めて、ぼんやりしていたら、修学旅行の時、吹奏楽部の溌剌(はつらつ)とした女の子が、公衆浴場の脱衣所で親しい女の子を集めて、「ねえ、下の毛って生えてる?」と聞いてまわっていたことがあったのを思い出しました。
わたしたちは、大人の体を持つようになってしばらく経ち、毛が生えていることなんて当たり前で、今さら生えているか生えていないかなんて気にもとめません。
昔、聞いてまわっていた彼女も、今はそうだと思います。
けれど、わたしの記憶のなかの彼女は、ずっと扁平(へんぺい)な体のままで、下の毛を気にするような幼さを持ち続けるのだと思うと、過去と今が分断されて、頭のすみの、遠く遠くの、あの日のあの脱衣所に、彼女の影がいるような気がしました。
そのことを、せっかくなので、漫画という形で残しました。
漫画の夢と実際の夢の内容は違います。
夢について
夏が始まって、終わり、秋を迎えるという流れのなかで、死んでいく生き物がたくさんいるから、秋はもう2度と会えない人の夢をみるのではないかと思います。
わたしは宗教や占い的な意味ではなく、生き物の発散する気配を信じているので、葉っぱやセミや、わたしの祖母など、死んでいった生き物が肉体を離れて遺した死の気配が、日本の秋を満たして、それを吸い込んだ脳が、2度と会えない人や2度と起こらないことを、思い出すんじゃないかと思います。
現実の記憶なのか、夢の記憶なのかわからない記憶が、誰しも1つはありますし、死んだ人に何度も会うことが出来るので、夢は不思議です。
現実がつらいときは、夢を見ているほうが楽しいこともあります。
皆さんがどんな夢を見ているのか、興味があります。
よろしければ、皆さんの夢の話も聞かせてください。
制作について意識すること
わたしの作品が、わたしの作品をすきだと思ってくれた人にとって、占いや、おまもりや、おまじないのようなものになったらいいなと思っています。
わたしにも、すきな漫画や小説や音楽や景色があって、それによって、生きる怖さや死ぬ怖さが和らいで、生きて生きて、そして死ぬのも悪いものじゃないなと思えることがあります。
小さなことだと、川を見に行こうとか、パンを捏ねようとか、そういったことです。
そう思えるようなものをたくさん作っていきたいと思っています。
それから、作品によって、人を傷付けてしまわないかはとても気にしています。
けれど、完全に傷付けないことは絶対に出来ないので、このことについて、まだ答えは出ていません。
ボヘミアの気になる作家など
ちびっこ牛乳先生と不吉霊二先生です。
ちびっこ牛乳先生の作品は、悲壮感や死の匂いの中に、生きていると、どうしたって滲んでくる、おかしさ、間抜けさがあるような気がして、登場人物が皆、一所懸命生きている感じが愛おしいです。

『ボヘミア』vol.1より ちびっこ牛乳先生・作『受胎告知』

不吉霊二先生の作品は、ファンシーなタッチの登場人物の中に、しっかりとした血や思想、生きざまがあるように感じられます。
Read Nowと、生きて、悩んだり、苦しんだり、笑ったりしていることが愉快に思えます。恋もしたくなります。

『ボヘミア』vol.1より 不吉霊二先生・作『タレント(前編)』

漫画の登場人物は紙の中で、殺されない限り、永遠の命を持っているけれど、お二人の作品の登場人物は、皆生ききって最期を迎えるような気がします。

それから、川勝きりん先生の無我夢中に登場した、遠くの火事の場面がいいなと思いました。観覧車という密室で、2人で、遠くに火事を見つけてしまった時の胸がざわつく感じ、小さな火は安らぎを覚えるけれど、遠くに小さく見える火事はどうだろう?と思いました。

『ボヘミア』vol.1より 川勝きりん・作『無我夢中』

何か話したいことなどあれば
わたしは、生活がすきです。
住宅地のあげものの匂い、すれ違う、対向車の人々のぼんやりとした顔、イベントのために飾られた街、人、ひとりひとりに、楽しみにしているテレビ番組や、明日の予定、肌荒れの悩みなどがあるのだと思うと、人間でいることに胸が詰まります。
テレビで、誰かが、刺されたり、電車を止めたり、虐待で死んでしまったりすると、とても悲しい気持ちになります。
そういう気持ちを、大切に、作品を作っていけたらいいと思っています。
今後ともよろしくおねがいいたします。
1月1日発刊の『ボヘミア』vol.3にも、さきふみこ先生の新作『葬儀』が掲載されます。
さきふみこ先生、インタビューに回答いただきありがとうございました!
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