ノイエルの森からはるか西にある芸術の街トルキアーナに住む彼は朝からペーパーボーイとして新聞を配達しています。
軽快に家々の玄関口にポーンとうまく投げ込んでいく姿は颯爽としています。
そんな彼の名前は、マーキス・ヒュー。
大きな夢を持ったカエルの妖精です。
大きな夢?
それは、マンガアーティストになることです。
ここトルキアーナは画家を目指す人、歌を生み出したい人、そして人気のマンガ雑誌でデビューしたい人など、新しい
風を起こそうとしている、いろいろな人が集まる街なのです。
マーキスは、その刺激を受けながらマンガ雑誌での連載を夢見ていろんなお話を描いています。
今日も描き上げたマンガを編集部に持ち込んだようですが、OKはもらえなかったようです。
彼は部屋に戻り、持ち込んだマンガをパラパラと眺めているうちに眠ってしまいました。
その夢の中に出てきたのは、子供のころに見た黒い森でのおじいさんたちの姿でした。
胸に揺らいだ渦巻き模様のあるカエルの妖精のおじいさんたちは、森に漂う、もやもやした白い球を吸い込んではお札
のついた壺に吹き込んでいます。
そのたびに胸の渦巻きの模様は赤く光り怪しく見えました。おじいさんは振り返ってマーキスを見ると、これは、うま
くオバケのカエルの妖精になれなかった魂の玉だと言いました。
この壺をオバケの世界に届ければ、彷徨っていた魂も無事にオバケの妖精として姿をえるんだと。
「こんなところを見た遠くの人たちがわしらのことをキモを吸う妖怪とかいって おったのう。カカカ」
おじいさんたちの笑う顔で夢から覚めたマーキスでした。
ぼーっと部屋の明かりを見ながら、
「そうだね。流行りにのった話じゃなくて、おじんさんのこと描いてみようかな。
描きたいことをじっくり描いて、おじいさんや、オバケの妖精たちに見てもらうのがいいね」
マーキスは、何かの歯車が回る音がした……、そんな気がしていました。