岩井の本棚 「本店レポート」 第16回

細かいのいろいろ4・GW情報

あるていどの歴史と読者層があるコミック誌はいずれも、新人発掘に非常に力を注いでおり、 いくつものコンペを開催し、賞を取った新人には発表の場を与えています。

アフタヌーンのようにもともと新人発掘がメインテーマで、四季賞から斬新な作風の新人を何人も輩出しており、 それゆえ読者も新人の作品にかなり注目していて意見が反映しやすく、 なおかつ本誌に厚みがあり新人の作品を載せる余裕がある…という環境があればよいのですが、大多数の雑誌にはそこまで余裕がありません。

そのためこういった新人の作品を載せることを目的とした雑誌を季刊サイクルで発行しています。 ヤングマガジン黒BUTA増刊とかヤンマガ海賊版、モーニングオープン増刊、スピリッツカジュアルなどがそれにあたりますね。

しかしこういったものは増刊だったり不定季刊だったりするため、買い逃すとまずなかなか手に入らない。
また多くの人の目的が新人の作品を読むためではなく、ゲストで招かれた人気作家の読みきりや特集を読みたい、という方向性のため、 毎号必ず買っている濃いファン、はなかなかいないのではないでしょうか。

今回は週刊ジャンプの登竜門的な存在である「赤マルジャンプ」とアフタヌーンの増刊である「アフタヌーンシーズン増刊」が入荷しました。

くわしく全て書ききれないのが惜しいですが、注目作が掲載されている部分は脚注をいれています。

【 アフタヌーンシーズン増刊 芦奈野ひとし「PositioN」大揃い 】


1999/創刊号
遠藤浩輝「女子高生2000」
小原慎司「Junkie-gentleman」→4P/未収録
沙村広明「みどろヶ池に修羅を見た」
芦奈野ひとし「PositioN」1話/オールカラー
烏屋さと志(カラスヤサトシ)「ニャニャドヤラ」
フクヤジョウジ(海野螢)「メモリ星人」第1回

2000/2号
沙村広明「少女漫画家無宿 涙のランチョン日記」
烏屋さと志「ニャニャドヤラ」
小原慎司「女神調書」

2000/3号
芦奈野ひとし「PositioN」2話
藤枝岬(藤枝奈己絵)「家族万歳!」
漆原友紀「蟲師」第3話/カラー3P
烏屋さと志「ニャニャドヤラ」
小原慎司「女神調書」

2000/4号
烏屋さと志「ニャニャドヤラ」
小原慎司「女神調書」
鬼頭莫宏「華精荘に花を持って」(「残暑」収録)

2000/5号
漆原友紀「蟲師」第5話/カラー3P
芦奈野ひとし「PositioN」第3話
石黒正和(石黒正数)「ヒーロー」
烏屋さと志「ニャニャドヤラ」
小原慎司「女神調書」

2001/7号
芦奈野ひとし「PositioN」4話/オールカラー

2001/8号
玉置勉強「You'll never walk alone.」
漆原友紀「蟲師」8話/4Pカラー

2001/9号
平野耕太「彼らの週末」→単行本未収録
芦奈野ひとし「PositioN」5話
森徒利「奥さまランチ」

2002/10号
巻頭カラー「蟲師」
遠藤浩輝「メルトダウン」第1回→単行本未収録
読切 小川雅史「破落戸」

2002/11号
高橋慶太郎「Ordinary±」
柏原麻実「remain」
武富健治「まんぼう」→「掃除当番」に収録

シーズン増刊は14号で廃刊となりました。看板だった「蟲師」はもとより「もっけ」「ラブやん」「Noise」などはみな移植していきましたが、いくつかそのまま消えた連載もあります。

目玉である芦奈野ひとしの「PositioN」はこのあと12号の第6話で中断したと記憶しています。単行本化未定なので、探している方も多いのでは。
カラーの味わいはいつも通りです。これを読むために古本屋めぐりをはじめた芦奈野ファンは多いと聞きます。
遠藤浩輝「メルトダウン」もけっきょくこれきりになってしまった。

「蟲師」はカラーで単行本にも収録されている部分がほとんどですが、雑誌で見ると当時の感動が甦ってくるようです。
平野耕太の未収録、また「ヨルムンガルド」で注目された高橋慶太郎もいますね。
6号と12〜14号なしの大揃いになってしまいますが、このあたりを一号一号探すのは絶対に手間です。11冊で3150円。

【 赤丸ジャンプ2003SPRING+ジャンプ2003年51号 天野明セット 】


赤丸ジャンプには読切「バクハツHAWK!!」が、51号には「家庭教師ヒットマンREBORN!」の読切・プロトタイプ第1回が掲載されています。単行本に現在のところ未収録。

ご存知のようにデビューはヤンマガなので、別冊ヤンマガなどを調べれば過去作が出て来はします。

ですがジャンプで再デビューした当初「バクハツHAWK」が掲載されたときはワンピの影響バリバリ受けてるし、 逆にリボーンの読切時はその影響を何とか消そうと絵のタッチをあえて変えてきているけれどノリはそのままだし、 本来描きたかったのはジャンプ的な作品で、芽が出なかった「ぷちぷちラビィ」の頃とはまったくの別作家と考えるべきかもしれません。

ジャンプ世界観の未収録作だからこそ意味があるこの2冊。セットで4200円。

【 青マルジャンプ sティール・ボール・ラン特集号 】


スティールボールラン(以下SBR)の特集号で、ピンナップ、SBR番外編などが掲載されていますが、
荒木飛呂彦大いに語る!!という感じのロングインタビューが目玉でしょう。なんと8ページものインタビューなのです。
ジョジョ折り返しの作者の一言でもわかるように名言の多い荒木先生がこんなにインタビューに答えてくれるとは・・・まさに必携です。

ちなみに「波紋使い」「吸血鬼」「ノーライフキング」と畏怖されるほど、 一向に老けないことが語り草になっている荒木先生(ときどき先生自身がネタにしてます)。インタビュー班もそう感じたのか、最後にこんなコトバがありました。

「『その若さッ!先生は波紋使いなんですか?』という質問をぶつけたくても恐れ多くて聞けなかった取材班。 しかし我々は見逃さなかった、先生がもつティーカップの紅茶に確かに「波紋」が出来ていたのをッ!! やはり先生は波紋使いなのだろうか?」 なるほど・・・論争が一歩先の展開を見せはじめましたね。ということは荒木先生も油が流れる壁面を指先だけで登りきったり出来るというわけです。
これだけでもこの本を持つ意味があると思う。2625円。

この他に1999〜2005年くらいの赤丸ジャンプが大量に入荷。
星野桂の例でもわかるように、欲しくなったあとから探してもなかなか見つからない類の本なので、作家陣で気になる人がいたら押さえましょう。
注目はムヒョとロージーの西義之が改名前(多摩火薬.名義)のころの読切「ARROWS」が掲載されている2001年春と、 「魔人探偵脳噛ネウロ」のプロトタイプ第1回読切が掲載されている2004年夏でしょうか。

そのほか

【 東京堂えるえる掲載 パピポ外伝11冊セット 】


志村貴子がコミックビームなどで活躍する以前、東京堂えるえる、 または加藤マサイチという名で、成年誌にて執筆していたことは一部のファンには有名です。

微エロの中にカラっとした明るさが感じられファンにはたまらないのですが、 本人は非常にこのあたりの作品を公開するのを恥ずかしがっているらしく(エロがというよりも絵のスタイルの方ではないでしょうか)、 要望は高いのですが単行本化は絶望的のようです。今回入荷分に収録のタイトルです。

「僕の好きな先生」×2話「おもしろい女」「ロリータコンプレックスの事情」「逃げ。」「おかしな2人」「楽園にいこう」「殺したい程キミが好き」「青春劇場」「WE/ARE」「おいにい」志村貴子の女性的な絵と、 まいなぁぼおいとかあうら聖児とかの古参エロ作家が同じに掲載されているのがなんとも不思議ですね。

ちなみにこの雑誌に描いているころにコミックビームの編集のヒトの目にとまり、あとはご存知の通りの活躍ぷりですが、最初にこの才能に気がついた編集者のアンテナの広さと慧眼には驚くほかありません。11冊で7350円。

【 MINE 森山犬原画集 】


「クロノクルセイド」森山大輔氏がPC9801期に成年ゲームの原画をやっていた(スタジオ実験室にグラフィッカーとして入社)ことはあまり知られていないようです。

当時は森山犬名義で「ぷりんせすでんじゃあ」「ばにぃはんたぁ零」「機械じかけのマリアン」などの原画を切っており、本誌にも収録されています。

若かりしこの時代の氏のインタビューも収録されており、田中久仁彦と結城信輝を意識している・・・とかクロノクルセイドを知る人であればうなずける部分が多いかもしれません。

しかしなにしろ98が一部とはいえまだ現役だったころの本なので、かなり市場から淘汰されてしまっています。中野店初入荷。2100円。

【 青太郎の恋 西原青一 】


「鉄鍋のジャンR」であの怪食対決を復活させた西条真二。「となりの格闘王」以前はロリマンガ全盛期だったこともあり、 今の絵の濃さからは想像もつかない白い絵の成年マンガをいくつか残しています。そのうちの一作が入荷。

タイトルは「青太郎の恋」。メガネダメ男子だけど御曹司の青太郎が金の力で女生徒をムリヤリレイプしまくる・・・という内容ですが、 ジャンに出てくるようなバインバインの巨乳が出てこないのが意外でした。

主人公も永野のりこのすげこまくんみたいで、表紙はメルヘンチックで少女マンガのよう。
事前情報がなければまず西条真二だと気がつかないでしょう。

おどろくのは巻末のあとがきで「清原なつののセンスで早見純のグロを描いてみたいです」とある部分。清原なつのがグロ!! この組み合わせはありえません。

たぶん清原なつのが久保書店に来てもグロは描かんだろうし、早見純がりぼんに呼ばれても花図鑑みたいな作品は描かんと思う。すごい組み合わせを理想とする人もいたもんですね。

この本も中野店初入荷ですが、奥付に発行日すら記載されていないという投げやりさです・・・ていうか司書房だから仕方ないか・・・。1050円。

【 とらわれペンギン ディスク文庫版 】


森山塔の「とらわれペンギン」といえばエロ劇画ムーヴ以降のあの時代に、 成年コミックを読み始めた者にとっては特別な響きを持つ作家です。

エロマンガにもかかわらず容赦のない暴力が描かれ、政府機関、思想犯、クローン人間が登場。 買取で見かけるたびに、バットを突っ込まれ木につるされたあのシーンが思い浮かぶのです。

そんな本作をPCで楽しもう、という種子で出されたのがこの「ディスク文庫版」とらわれペンギン。
アソコン関連で乱発してましたね、こういうダサエロゲーム。

ウィザードリィ調のダンジョンRPGで、モンスターのかわりに女子高生とかくの一を倒す、 という、ジャケットこそ森山塔ですが、ゲーム内容はおそらくまったく本人がかかわっていないスカスカぶりです。なにしろ敵キャラの女子の絵が、すでに森山氏がデザインしてないんだもん。

対応機種はSR以降の8801。メディアは5インチFD2枚。
8801はエミュもあるから出来なくもないだろうけれど、問題はメディアが5インチFDだという点です。

どうやってイメージ化するのかとか、WIN用の5インチFDDなど存在するのかとか、それ以前にFDが起動するのだろうかという数々の難問をクリアできる人でないとオススメできません。
そのため動作未確認です。630円。

【 機動戦士ガンダム ガンダム大地にたつ 】


もっとヒドいのが出てきました。FM-7版のガンダムです。
エロゲーを含むノベル形式のゲームは、いまでこそ「デートする」「いや、今日は帰る」みたいに選択肢を選ぶコマンド選択式になっていますが、当初はコマンド入力式でした。しかも英単語でです。

つまり画面にある机を見よう、とおもったら律儀に「LOOK DESK」机の上からペンを取ろうとしたら「GET PEN」などと一文字一文字コチコチと入力しなければいけなかったのです。 これがLOOK程度ならまだいいのですが、ハドソンが作った某ゲームでは棺おけに十字架をハメるシーンで「ATTACH CROSS」などという普段絶対使わない英単語が採用され、多くの中高生を悩ませました。

このゲームはガンダムをPCで! の第一号ですが、自分が今なんのアイテムをもっているかを調べるのにいちいち「INVENTORY」などと9文字もコチコチ入力しなければいけないという恐ろしいことがマニュアルに書かれていました。数文字 入力するのも手間でコピペしている10代の若者にはクリアは絶対不可能です。

対応機種はFM-7で、メディアはカセットテープです。今の若い人は知らないかもですが、昔はカセットテープをキコキコ読み込んでゲームが出来たんですよ。
一回ゲームやるためにデータを数十分読み込むなんて想像つかないと思います。

FM-7はエミュもあるから出来なくもないだろうけれど、問題はメディアがテープだという点です。
どうやってイメージ化するのかとか、WIN用のデータレコーダなど存在するのかとか、 それ以前にテープが再生するのだろうかという数々の難問をクリアできる人でないとオススメできません。そのため動作未確認です。
単純にグッズとしての価値のみなので210円。

【 コミックマゾ 】

休み明け会社に来てみると、机の上にこんな本がおいてありました。
置いたスタッフに聞いてみると「いや、なんかこういうの好きそうだと思って」。
いやいや僕はマゾなんか好きではないのですが・・・。SMシークレットの別冊とありますが、 中は男がこれでもかとばかりに恥辱を味あわされ汚辱にまみれるセックス&スカトロ&マゾ&ピースという素晴らしい・・・あわわ、おぞましい世界が展開されています。

巻末に「マゾ男性モデル大募集!」とあるのですが詳細が「特に、スカトロプレイの得意な方、お待ちしております。また、女装アナルプレイなど、 よりハードアブノーマルな方々も大歓迎です」と、非常識この上ないことがスラッと何もおかしくないよとばかりに書いてあるのがいい。

女装アナルプレイとは何ぞや。
マゾ男性が女装して女王様にアナル調教でもされんのか。
男ってホントにダメな生き物ですね、汚らわしい。
内容的には3号のほうが濃度がズバ抜けて高いですが、5号のほうは根本敬と東陽片岡が載っています。各420円。

【 女子高生バトン子倶楽部 】


80年代に流行った森信之の「東京女子高制服図鑑」の亜流で、 全国のバトントワラー、チアリーダーのコスのイラストを多数収録した本です。
富本たつやの80年代ぽい丸っこい絵がかわいくていいし、資料性も高いです。

僕はNHKの高校野球だと選手よりもチアの娘を見てしまうタイプの人間ですので、こういった資料本かなり好みですね。
難をあげるとしたら、チアの絵を描いているのが統一されていなくて玉石混交なことくらいでしょうか。

ちなみに編著の吉岡平氏は「無責任館長タイラー」シリーズで有名ですね。
昔はこんな仕事してたんですね・・・。道理で解説記事がやたらに熱いと思った。420円。

【 マンガ法律の抜け穴3 & 大東岬物語 】

山川直人というと、昨今は「コーヒーもう一杯」で読み始めた人が多いかもしれません。
しかし雌伏期間が非常に長かったため細かい仕事も多く、ガロや同人誌含めてある程度手に入りやすいものを全部集めても読めないものだらけです。

少年画報社から出た「あかい他人」「ナルミさん愛してる」も市場から姿を消しましたし。
自由国民社からでている、法学部の学生むきの「マンガ法律の抜け穴」シリーズでもなぜか山川直人が登場。

ほかのシリーズはどちらかというと劇画系の人ばかりなのになぜ山川直人? しかもこういう仕事でも氏は手を抜かないので、いつものあのタッチです。

でも描かれているのは「実の親でも、離婚して親権がない親だと、親権者に無断で子供を連れまわすだけで誘拐罪適用だ!」という真っ暗な話、 自分が何を目的にしてこの本を読んでいるのかがわからなくなる。
山川氏の絵を見てホンワカしたいのに、ムダに愛人との訴訟に詳しくなったりするという諒解エラーな状況に陥ります。どうですこれ? カバー痛みで420円。

「大東岬物語」は千葉県岬市の歴史民族研究会が出した、まあよくある郷土歴史モノコミックなんですが、なぜかこのうちの一編を山川氏が担当。 大ナマズの言い伝えを漫画化しており、目がクリクリの子供など山川氏のデフォルメが楽しめます。

こちらもほかの作家のタッチは絵本ぽかったり少女マンガ風だったりで脈絡はなく、しかもなぜ山川氏が登用されたかの説明などが一切ないのが不思議。
この町出身というわけでもないようですし。420円。

山川氏のこういった小さな仕事に手を抜かない姿勢と遅咲きのブレイクという点は、 僕の中だと小林稔侍にカブるのですが、かつて小林稔侍が徹子の部屋に呼ばれたとき、 ブレイクした理由は下積み時代にどんな仕事でも全力投球して持てるすべてを常にぶつけてきたからだと語っていました。

しかし下積み期の小林稔侍にフラれた役っていうと、ヤク中とか強姦魔とか、 泥酔してそこいらのオヤジに絡んで説諭され逆ギレとか、そんな役ばっか。
それに全力投球したおかげで今の自分がある・・・一生懸命シャブ中とレイプ魔を演じたおかげでやがては理想のパパさん俳優に・・・ってのは夢があると思いませんか。
上記のものは5/4日に出します。
シーズン増刊と赤丸ジャンプ以外は基本的に本店2に並べています。
パピポ外伝はショーケースに、あとのものはL-7棚に出ています。L−7棚については「マンガけもの道第28回」を参考にどうぞ。

余談ですが上司に「岩井の本棚はもうツマんないね」といわれ、メチャクチャ落ち込み。
自分ひとりが面白いと思いこんでイイ気になって書いてたのかと自分の空気の読めなさにウンザリし、 マンガなんか読むから悪いんだと思って家にあるマンガを片っ端から捨てようと思って箱詰めしているうちに大掃除モードにスイッチが入ってしまい、 なぜか換気扇やバスタブまでピカピカにして汗だくになっているうちに憂鬱な気分が晴れました。単純な自分が情けないです。
※この記事は2007年5月1日に掲載したものです。

(担当岩井)

お問い合わせ (営業時間:12:00〜20:00)

まんだらけ中野店(詳しい店舗地図はこちら)
〒164-0001 東京都中野区中野5-52-15
TEL:03-3228-0007 / e-mail:nakano@mandarake.co.jp