岩井の本棚 「マンガにでてくる食べ物」 第42回

ベビースターと吉本蜂矢


(図1)
ベビースターは昔、ベビーラーメンという名前でした


(図3)
ヌルヌルだったかな?


(図2)
ちなみに今回、ベビースターネタがやたらおおいリトルグルメ「Oh my コンブ!」はもう食傷気味なのでパスしました

第36回の下調べで前掲書「駅前の歩き方」(森田信吾)を読んでいたときに、こんな記述に目が留まりました(図1・2・3)。

たしかに、誰もが一度は通った道でしょう。ベビースターにお湯をかけるのは。
とても有名な話ですが、チキンラーメンのつもりでお湯をかけても、ラーメンにはなりません。 うすら塩っぱいスープの中に、ラーメンが浮いているだけ、という珍妙な代物になります。

しかしもともとベビースターラーメンはインスタントラーメンを作る時にできる麺のくずをそのまま食べたらおいしかった、 というのが開発のきっかけですから、おおもとの部分は誤りではないわけです。

ちなみに、インスタントラーメンの袋を開けて麺を鍋に入れると、袋の中にはこまかいラーメンの破片が残っていますね。
みなさんアレどうしてますか。

僕はどうせスープ全部のむわけじゃないし、あの破片を全部すくいあげることは不可能だから全部捨ててますが、何か釈然としないものを感じます。 一度思い立ってスズメにやってみましたが評判はよくありませんでした。
注釈※1

赤、緑、黄色といった毒々しい色のゼリー。昨今の小カップ入りゼリーと違い色と味との関連性はありませんでした。


注釈※2

「青りんごヨーグルト」。緑色の小さなカップに入っている。常温で腐らないのが謎でした。実際にはヨーグルトではなく、香料入りのバタークリームではないかと思われます。


注釈※3

「〜さん太郎」のネーミングは「菓道」というメーカーのシリーズ。有名なのは「蒲焼さん太郎」。ちなみにキャベツ太郎はソース味です。


注釈※4

当時ヤンキー色全開だったヤンキンにいきなり連載された男子高校生同棲ギャグマンガ「デビューマン」。 ヤンキン読者には全く無視されましたが、多くのギャグ好きを悶絶させました。作者は同人誌出身、音楽雑誌やゲーム系アンソロにも寄稿経験あり、元柴田亜美のアシという噂です。 いぜん交流のあったマンガ家さんに聞いたところ実は女性だそうです。余ったページにはこんなめちゃくちゃなイラスト(図8)や投げやりな4コマ(図9)が掲載されており腰砕け。



(図8)
デビルマンの頭に東京タワー、キャプ翼顔に「金日成死去」とにかくメチャクチャ


(図9)
男子的には「無痛」といえば分娩よりもレーザーメス

いまでこそおやつカンパニー社になり、CMも打ち知名度もあり、博多とんこつラーメン味や讃岐うどん味など、 全国各地限定バージョンの味があるベビースター(ここ北海道では札幌みそラーメン味)ですが、松田食品時代のベビースターラーメンは、 スーパーではあまり積極的には取り扱っていない、もっぱら駄菓子屋でしか手に入らないようなテイストのものでした。

駄菓子は衛生的でない、着色料などよくない原料が入っている、といった批判にさらされており、中には食べるのを禁止された方もいるのではないでしょうか。

たしかに駄菓子、というと着色料バリバリの原色の棒状ゼリー(注釈※1)とか、冷蔵しなくても腐らない謎のヨーグルト(注釈※2)とか、 絵の具のようなチューブ状の入れ物に入った鉄臭いチョコレートとか、食べると舌が緑色になる30円のアイスとか、 「キャベツ太郎」「タマネギさん太郎」のように原材料と味に何の関係もないネーミングのもの(注釈※3)とか、とにかく得体の知れないものが多かったのはたしかです。

そんな得体の知れんものを、駄菓子屋の軒先やら通学路で食べるわけですが、普通のスナック菓子と違ってひとつひとつつまみながらはたべれません。
いきおい少しづつつまんだり、手のひらに載せて食べるわけですが、これが著しく駆動ロスがでる。ほとんどこぼれちゃいますね。


(図4)
「のだめカンタービレ」1巻。のだめは食べ物ネタおおいですね


(図5)
ベビースターはアリさん大好きなので床には散らかさないように

大人気の「のだめカンタービレ」にも、部屋の片づけができない、ごみが捨てられないのだめが、楽譜の上にベビースターをこぼしたままにしてるコマが散見できます(図4・5)。

ではこぼさずに食べるにはどうしたらよいか? これはもう単純に、袋の口に直接口をつけて流し込めばいいんです。

あれがもっとも実利的ですが、まあ他人から見れば品がないというか、あまりほめられたもんじゃないですし、 まあ実際にやってみるとわかるんですが、口に入ってくる量が多すぎて超ノド乾きます。

あと、勢いよくこれやると気管にベビースターが入ってきてゴホゴホむせて死ぬほど苦しい。いい大人はやらん方が無難ですね。
そんなことを同じく考えたのか、「デビューマン」吉本蜂矢(注釈※4)には、唐突にこんなコマが登場してました(図6)。

(図6)
僕はA派です

「どんなかわいい女でも3通りの食い方」
これはどうやって食ってるか、っていうと、紙に広げて口に近づけて、ベロにくっつけてるんだろうと思いますが、これはあまりにあんまりな食い方です。

だけれどこぼさずに食べるのは可能なのかな? 吉本蜂矢は「どんなかわいい女でもベビースター食うときは下品にならざるを得ない」といいたいのでしょうが、 いくらかわいい女でも素っ裸でベビースター食うことはないんじゃないか。
どんな状況でしょうか。風呂上りにベビースター食わんだろ。あと裸足でベビースター踏むと予想外に痛いので注意したほうがいいですね。

おそらく雑誌掲載時にこのコマに広告でも載ってたんでしょうが、この投げやりな穴埋めの仕方。 前後にベビースターは全く登場しません。投げやりさがサマになる作家なんてそう滅多にはいませんが、吉本蜂矢はその稀有な一人です。

だからといって2巻が出るまで7年待たせてよいって話にはなりませんね。それでも吉本蜂矢の下品なギャグ、また1コマあたりのギャグ濃度の高さは最高で、当コラムを読むような諸兄にはおすすめ作家です。
これはやったことがある人がどれだけいるのかわかりませんが、小学生の頃はインスタントラーメンをグシャグシャに砕き、ベビースター状にして食べるのが流行りました。

僕らの学区では当時発売されていたチキンラーメンのしょうゆとカレー味(注釈※5)が人気でしたが、 様々な人に聞くと「サッポロ一番塩ラーメンのスープを半分だけ混ぜる」とか「チャルメラでやる時はスパイスは除いたほうがおいしい」などといった意見が拝聴できました。

最近は粉末スープではなく液体スープのものが多いですが、液体だとできませんので注意して下さい。
注釈※5

チキンラーメンには一時期、みそ味とカレー味がありました。みそ味はマズかった覚えしかありません。


注釈※6

「ラーメン屋さん太郎」「焼きそば屋さん太郎」「ひとくちラーメン」など。


(図7)
「殴るぞ」4巻。すりこぎよりも、握りつぶすのが多数派

ちなみに吉田戦車さんの提案する方法はコレです(図7)。

それで思い出したのですが、当時駄菓子屋には偽ベビースター(注釈※6)がたくさん売られてました。 そのうちのひとつで「ラメック」というのをご存知でしょうか?

ベビースターは「ラーメン状のお菓子」ですが、ラメックはというと「ラーメンのくずをお菓子にしたもの」でした。

何だかギトギトした味付けですごくチープ。
たくさん食べると胸焼けがする代物でした。一袋10円。
たしか袋はクリーム色でブタの絵が書いてあったように思うのですが、今でも売っているのでしょうか?

注釈※7

ベビースターにはカップの物があり、60円で売られていました。 麺がベビースター状の短いものが前期、ちゃんとした長い麺のものが後期です。また焼きそばもあり、たしか80円。焼きそばUFOに似た味だったと思います。キャベツなし。

このラメックはラーメンの破片だから、お湯で戻すとそのままラーメンになる優れものでした。

カップのベビースター(注釈※7)に混ぜて食べるつわものもいたようです。

このラメック、今となっては正直粉っぽくてマズイ印象しかないのですが、何だか食べたくて仕方がありません。

今でも売っているのかどうかも不安ですが、少なくとも全ての母親から「そんなお菓子は食べちゃダメ」といわれそうな、怪しさ満点の駄菓子でした。
どのメーカーが作っているのかも思い出せません。誰か知っていたら教えてくれませんでしょうか? お待ちしてます。

「殴るぞ」「デビューマン」「のだめカンタービレ」「駅前の歩き方」はいずれも札幌店にて取り扱いをしております。ベビースターを食べながら本を読むとページの間に挟まるので注意して下さい!
※この記事は2006年2月22日に掲載したものです。

(担当岩井)

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