岩井の本棚 「マンガにでてくる食べ物」 第28回

美食界のケンカ屋・山岡士郎その戦歴


(図1)
ちゃんと目を見て話せ


(図3)
パック寿司に失礼です


(図4)
億万長者をじいさん呼ばわり

食べ物をテーマにしたマンガは今も衰えることなくあり、早食いチャンピオンのマンガまであるくらいです。
しかし社会に大きな影響を及ぼしたほどの巨星というと「美味しんぼ」を置いて他にありません。

美味しんぼはあまりの巨星さゆえに様々な毀誉褒貶の生まれやすい作品ですが、たしかに結婚、子育て、そして雄山と和解しつつある近年のそのユルさは、古くからのファンにとっては、読んでいてタメいきが出るのもやむをえんです。

たとえば3週前のスピリッツ掲載話では、山岡の友人たちがつまらぬことでみんな言い合いをし、 仲を取り持ってくれ、と頼まれた山岡が崩壊し、ギャー、どいつもこいつも勝手にしろ!と叫びながら、東西新聞社内で大暴れ、 机などを投げ飛ばし社内が荒廃する、というワガママし放題。究極のメニュー担当者といえど、たかがヒラ社員、 しかも肝心の究極のメニューは20年経ってもまーだ完成してない。

やれっていった仕事が20年経ってもできないような社員は、もうグータラとかってレベルじゃないよ。
これで解雇しない大原社主は大人物もいいとこです。


(図2)
でも目を合わせないんだけどね

食べ物に旬があるのと同じように、長期連載にも旬があります。
この旬、の期間がもっとも面白く、作者もノってい描いています。

たとえばドラえもんだったら8巻まで。ゴルゴ13は30〜40巻台。こち亀は40から80巻台。

では美味しんぼの旬、はというと、結婚までの30巻台から47巻付近ととるか、究極VS至高のメニューで対決路線が明示された10巻台ととるか諸説色々あります。

ですが、僕的には「山岡と雄山がケンカ屋だったころまで」が一番面白いですね。具体的には3巻まで。

今の山岡だったら結婚バンザイ! 家庭っていいな、友人に囲まれてハッピーです! くらいの勢いですし、雄山も往年の気性の激しさは影を潜め、 頼めば皿のひとつもうっかりプレゼントしてくれそうな雰囲気ですが、20年も前の若かった頃はふたりともホントヒドかった。
でもメチャクチャかっこよかったんです!

ふつう大のおとなは食いもんのことなんかで声を荒げたり、暴れたり、はては社会的恥辱を与えたりしないんですが、 この二人は食べ物のことで、ゲキ本気でブリブリ怒るし、暴言吐きまくり、大人気ないことこの上ない迷惑な親子です。

たとえば鍋の進行にうるさい人を鍋奉行、と呼びますが、それでもせいぜい奉行ですよ。
この二人の小うるささときたら、比すれば鍋天皇くらいですね。
そして喧嘩っ早さといったら、もう瞬間沸騰ですよ。まずいもん食って一秒後に血管が浮き出、激昂、女将を出さんか! と怒鳴る。シビレます。

ちなみに山岡のケンカっぷりは、基本的に冷静で、シニカル、皮肉屋です。
しかし神経を逆ナデさせることおびただしい、エセ左翼みたいな論調のムカつく怒り方です。
みなさんも読んでいるはず、の定番・美味しんぼを、ケンカ屋山岡のケンカ遍歴と読み替えてみましょう。


(図8)
山岡ひとりで100億円の損害


(図9)
絶対デートしたくない相手ですね

たとえば1巻、究極のメニューを作るのに美食家、評論家の皆さんの協力をおねがいしよう、と、 社主自らもうけた席で、フォアグラ最高! みたいな雰囲気になったとたん、もう吠えてる(図1)。

そしてお前らブランド好きのミーハーめ、とばかりに罵倒(図2)。
もう接待ブチ壊し、社主の面目丸つぶれ。空気読むって事をしない男、それが山岡士郎です。


(図5)
ムカつき琴線ふれまくり


(図6)
みんなに見えるようにヤル確信犯


(図7)
せめて買えよ、捨てるな


(図10)
すごい戒厳令シフト

3話目。めっちゃ高い銀座のスシ食いに行って、態度悪い職人に早くもブチ切れ、お前のスシはスーパーのパック寿司以下、と酷評(図3)。

こんときも社主のおごりですよ。
目上の人間におごってもらって、即ケンカするって、山岡、君は社会人として問題アリです! 目上の人間を敬わない、それが山岡士郎です。

4話目。接待されたメシがマズかった、と怒る京極さんに、肛門が狭いですね、と指摘後(図4)、しかもこのイヤミな言い訳(図5)。
テンパった人相手に一度は言い放ってみたいなあ。

その後も生鮮食品コーナーを大改装して得意満面のデパート社長の前で、いきなり大根を折る(図6)。

そして「見てくれだけか」と捨てゼリフ。大根折られたままポイ(図7)。食べ物粗末にすんなよ! と思わざるをえません。

こん時は相手を怒らせて、会社に100億円もの損害を与える寸前でした(図8)。

・・・って、いちヒラ社員が与えさせる損害の限度枠を越えてますね、100億円。枠に縛られない大きな男、それが山岡士郎です。
しかし山岡の真骨頂といえば、横浜中華街ですね。

人気店に並び、いざやっと自分の番がきたと思ったら、エラソーにしてる店員にキレ、何も食わずに「行こう、出るんだっ!!」(図9) 腹ペコペコで、やっと食えると思った女の子3人、なんも食えずに勘定だけ払わされる、とんだいい迷惑ですよ。
なんだってまたこんな小うるさいケンカ屋なんかメシに誘ったんだろう?

なので山岡にグチ言わせるの禁止! と禁グチ令が出るのですが(図10)、挙句次の店でも
「ちょっと・・・」
と店員に呼びかけ、アレ?穏やかに出るかと思いきや
「この豚バラ煮込みは出来そこないだ、食べられないよ。」(図11)
出来そこないだ!!! 食べられないよ!! こんなんいわれて怒らないほうがどうかしてますよ。

こんとき何気に花村さんが的確なツッコミしてますが(図12)、 ツラの皮の厚い山岡に効くはずはなくこのクールさ。カッコイイ!! マズイものは不味いと言い切る男、それが山岡士郎です。

まあしかし、自腹でも接待でもオゴリでも、どっかで金払ってる人はいるわけだから、 まずかったらまずいってキッパリ言えるのは、ふだん金払ってマズ食物を食わされても文句をいえぬ庶民の心を代弁してるんだからいいかもしれない。


(図11)
ケンカ屋の真骨頂

でもそれはフツーの人の思考ですね。山岡には当てはまりません。
なにしろ山岡と来たら、同僚が作ったオニギリまで採点する始末。このときのクールな山岡がイカす!
「30点・・・」(図13)
山岡さんも食べる? ってカンジで出されたオニギリに、食った挙句に30点つけるこのスタンス。

あまりに名言なので気に入って私生活で使いたくなるのも山々ですが、たいていは離縁を招くので言わないほうが無難ですね。


(図12)
花村さんのほうが正しい

でもこんなやたら敏感でふれるとすぐ爆発する危険物・山岡も、やがて協調性をもち、 ズッコケ社員として仲間バンザイ、栗田さんは最高の女です、となっちゃうんですよ。
あのヒールぶりはどどこにいったんだろう。
これは洗脳? それとも転向? ナイフの先が鈍ったのか? ああ、年取る、丸くなるってイヤですね。


(図13)
超クール!! クール!!

70巻以降の美味しんぼが、どっかセミナーくさくて痛々しいのを見るにつけ、初期の飢えた狼みたいにギラギラしてた山岡最高! 単行本で3巻まで最高!
・・・と言わざるをえません。

しかし・・・

そんなケンカ屋もかなわない相手・・・それが実の父・雄山です。
キレっぷりも暴れのスケールの大きさも、所詮雄山の前ではかなうわけもありません。

山岡を原爆だとしたら、雄山は大陸間弾道核ミサイルクラスです。
ですが・・・雄山のスケールの大きさを説明したい所で紙面もつきました。
最高のワイズガイ・海原雄山の素晴らしさは、また次回にて!

美味しんぼは本店2にて扱っています。改めて読むと新発見だらけですよ。

※この記事は2005年4月22日に掲載したものです。

(担当 岩井)

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まんだらけ中野店(詳しい店舗地図はこちら)
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