岩井の本棚 「マンガにでてくる食べ物」 第22回

でんがくうどんと天ぷら

スタッフの竹下さんと会社の帰り道、なぜか肉うどんの話になったんですが、 「このあいだうどん屋で肉うどん頼んだら、うどんにチャーシューのせたやつが出てきたんですよ。こっちの肉うどんはチャーシュー乗ってんのかと思ってびっくりしましたよ」
・・・と憤っていました。

うどんに焼き豚とは、いかにもマズそうな肉うどんですが、おおむね「肉〜」とつくような食いもんは、 少なくとも色気のある食べ物ではなく、鼻のアタマをテカテカさせた金ナシの若い衆と独身やもめ男のためのものですね。
女性が「肉ウドンと半ライス」などというすさんだ組み合わせでランチを楽しんでいるのを見たことがない。

以前紹介した中島らもさんの本でも「見合いの席で肉ウドンを頼み、破談になった」人の話が載っていたように、 名前からイメージされる男臭のキツさ具合では「肉ウドン」はトップなんではないかと思いますね。

僕が以前住んでいた埼玉県熊谷市では「熊谷名物・肉うどん」をうたっている店があり、 引越ししてすぐにその店をみつけ「肉うどんが町の名物なんだ、ここって・・・」と、街のランク付けでいったら最下位のダサ名物さにうんざりし、明るいはずの学生生活が一気に暗くなってったのを覚えています。

根本敬さんの名著「人生解毒波止場」でも、とてつもない肉うどんが登場します。
「以前広島の某レコード会社広島営業所にいたKさんより聞いた「田楽うどん」を食べに来たのだが、 なかなかそのうどん屋が見つからない。「田楽うどん」はうどんのタマの倍以上の量のホルモンが山盛りで、 一気に食らうと半日はハイな気分が満喫できるとの話だが、結局ありつけぬまま福島地区をあとにした」


(図1)
・・・とありこれがその想像図(図1)。
確かにこれだけの量がのっかっていたらハイになるのも無理はないでしょう。
一目見たときから僕の中での「謎料理」のトップで、食べてみたい地元食ナンバー1でした。
初読時から数年、長いことこの「田楽うどん」は謎で、 ネット検索でもひっかからなかったのですが、つい最近「でんがくうどん」とひらがなで検索かけたところ、何とかその実態がわかりました。
  • 広島市福島にある「くりはら」がでんがくうどんで有名。
  • シロやガツ、ハチノス、センマイなどの内臓肉と春菊、キャベツなどをにこんだものを「でんがく」と称し、それをのせたのが「でんがくうどん」。
  • あらかじめ味はついていないので、ポン酢、唐辛子、しょうゆ、塩などで、自分で味付けして食べる。
  • ほかにも白肉や肝臓などのてんぷらが名物。
・・・だそうです。
広島の福島地区は肉問屋が立ち並ぶ場所だそうですから、安価な内臓肉を使った料理が発達したのでしょうか。
僕は今まで居酒屋なんかで出される、味噌味のモツ煮込みをうどんにのせたものをイメージしていたんですが(製作したことはありますが、これはこれでなかなかうまい)、 違いました。ベースは豚モツではなく牛モツらしく、九州の牛モツ鍋のようなあっさり味のものなのかもしれません。
とにかくうまそうで、酒のつまみだったらなんでも好きな人にはたまらないメニューでしょう。

それにしても不思議なのは、内臓肉のてんぷらです。こんなんたべたこともない、みたこともないです。
僕が参考にしたサイトの記事だと
「大きくて噛み切れないので、卓上にあるまな板と包丁で、自分で程よい大きさに切る」
「非常にうまく、いくらでも食べれそう」
「だが、衣にじっとりと油がしみこんでいて、それが邪魔していて量が食べれない」
とありますが、そんな大きさで、油ギトギトで、しかも内臓肉! 机の上にまな板が常備してある! 男オンリーの世界ですね。
読んでいるだけで胸焼けしそうです。

さらに広島にはここ以外にもホルモンのてんぷらを食べさせる店が何件かあるとのこと、共通点は天つゆではなくポン酢で食べる、 あと白肉(ミノ)、センマイ(胃)、血肝(レバー)、ガリ(食道)くらいが定番なんでしょうか。

内臓肉のあげもの、で思い出すのは、せいぜい東京月島名物のレバーフライくらい。
ホルモンにかけては一家言あるはずの韓国料理でも内臓の揚げ物の話は聞いたことがないですよ?
未知の食べ物、内臓大好きな自分でも、ちょっとこればかりは自分で調理するのさえ怖くてできない代物です。誰か食べてみませんか?

余談ですが、そば文化圏の関東では、酒のつまみに、天ぷらそばのそばを抜いたものを「天ぬき」 または「天そばの台抜き」と称して、つゆを飲んだりてんぷらをかじったりしながら酒を飲む、のが非常にイキだとされています。

これに対して、粋の対極にある大阪文化圏では、肉うどんのうどんを抜いたものにタマゴを加えた「肉吸い」が、 吉本のなんばグランド花月そばにある「千とせ」の名物だとか。

「文化がナンボのもんや、イキでめしが食えんのか」といわんばかりの、この「肉吸い」。
テレビにも何回か登場しており、吉本の芸人さんたちに愛好者が多いとか。
前回大阪出張したときに絶対に行くぞと意気込んでいたのですが、ついにいけずじまい。
「でんがくうどん」「肉吸い」は果たせぬ憧れです。

それにしても冒頭の一件なんですが、大のオトコが仕事を終えてさあ一息つくぞ、というときに、なんで肉うどんの話なんかでエキサイトしてんでしょうか。
うどんの上に載っている肉なんかのことでキナキナ話し合う僕たち男の子・・・もうダメ、ぜーんぜんダメです。
たぶん僕らも、見合いをしても速攻、破談されるタイプです。

※この記事は2004年10月12日に掲載したものです。
(担当 岩井)

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