岩井の本棚 「マンガにでてくる食べ物」 第5回

「バキ」砂糖水14キロ

風邪をひいたときや、熱が出たとき、諸々の病気になったときには人間やはり食欲はなくなります。何ものどを通らなくなってしまうのです。
ところが、そんなときにこそ食べたもの、食べさせられたものが印象に残るのはなぜでしょうか?

僕的には、風邪をひいたときに食べたモモの缶詰や、 入院したときに食べた、死ぬほどマズかった、おかゆとマスの照り焼き、 細長くてパサパサのコッペパンなどがそういった思い出にあります。

世間的にはのどが通りやすくて消化の良いもの、という常識の病中食ですが、 圧倒的な表現で他の格闘マンガを寄せ付けない、板垣恵介先生の「バキ」は、さすがにまともではないものを病中食として出してきています。

そもそも「バキ」シリーズは過剰な描写で読者の度肝をぬく展開が多いのですが、連載当初から食へのこだわりは随所に現れてます。
単行本一巻から、「炭酸抜きコーラは即効の栄養補給でアスリートの愛用者が多い」「大きなタッパーにつめこまれたおじや」などの印象に残る食べ物が登場。

また夜叉猿との決闘のときにも熊の生肉、いのししの燻製、内臓の塩漬けが、対ガイア戦ではトカゲの生血が出てきます。
元自衛隊でレンジャー経験もある板垣先生であればの知識といった所でしょうか。

そしていま「バキ」では、主人公刃牙は毒に犯され、見るも無残な貧弱ボーイに成り下がり、明日をもしれぬ病状になってしまいました。
しかし中国の武術の達人が集う大雷台で、敵の毒手にふれた刃牙は、奇跡的に毒が裏返り、見事復活を遂げる・・・という経緯です。

しかしガリガリの貧弱ボーイがそのまま武術大会で勝利を収められるわけがない!ということで友・烈海王が大ご馳走を振舞うのですが、デザートと賞して振舞われたものがまたすごい。
バケツに入った砂糖水14キロです。

酷使された肉体、衰弱した内臓、破壊された筋肉細胞・・・毒によって体全てが悲鳴をあげていたのですが、この砂糖水14キロを一気に飲み干すことで、刃牙の体は超回復してしまうのです!
30ページくらいまえはガリガリで貧乏なムエタイボクサーみたいだった刃牙が、あっというまにもとのパンクラス体型に大変身しちゃうのです。
しかしそのときの復活のシーンもまたクドい!

「復ッ活!!」
「範馬刃牙復活ッッ!」
「範馬刃牙復活ッッ!」
「範馬刃牙復活ッッ!」
「範馬刃牙・・・」
「範馬・・・」
(以下略)

っって、6回も怒号しなくても分かるよ!というくらいのクドさです!

しかしこの繰り返しと大仰な表現、たとえ話の巧妙さ、本当にあったのかのように語られるエピソードこそが、板垣節といえるのではないでしょうか?

そういった意味ではこの瞬間、ボロボロの体を直すにはコレしかない!というシーンで、漢方薬だの気孔術だのハリだの変な呼吸法だのをだすヘッポコ格闘マンガがいかに常識に囚われているかが分かろうというものです。

まずは水分だよ!次は栄養だよ!栄養取るには砂糖だよ!バケツ一杯ッつったら14キロだよ!一気のみだよ!と、体が弱くてダウナームードになってるときに連呼されたら、やっぱり14キロ飲んじゃうんじゃないかと思いますね。


そういえば同じ格闘マンガ「高校鉄拳伝タフ」(猿渡哲也)でも、筋肉増強→たんぱく質の摂取、という構図が、ゆで卵の白身だけを何十個もモソモソ食べる、という不気味なシーンで登場しました。
少年マンガ誌の裏表紙に「ガリガリ男はモテないゾ!夏だから筋力アップ!」みたいな広告がいつの時代も載りつづけるのと同じように、少年たちに楽して筋肉をつけたいという欲望がある限り、格闘マンガと変な食べ物シーンは切っても切れない関係にあるのかもしれません。

なお「バキ」「飢狼伝」など板垣恵介先生のマンガ、「高校鉄拳伝タフ」など猿渡哲也先生のマンガはそれぞれ中野店本店にて扱っております。

※この記事は2004年6月28日に掲載したものです。

(担当 岩井)

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