岩井の本棚 「マンガけもの道」 第4回

金平守人のあとがき

金平守人さん・・・といっても、知っている方のほうが少ないかなと思うので、とりあえず説明したいのですが、上手い説明の方法が見つかりません。
表紙を見た感じだと(図1〜図3)、なんか萌えっぽいマンガ? と誤解を生みがちですが、その作風を既存の作家で例えて言うと、
「客観性を欠いた久米田康治」
「客観性がなくギャルゲー中毒になった佐々木勝彦」
「客観性がなくギャルゲー中毒でさらにひきこもりになった鈴木みそ」
・・・と、どれも散々な比喩しか思いつかないのですが、3者を全て読んだあとに金平守人の作品を読むと、なんとはなくいいたいことが伝わるかもしれません。

オタク向け知識満載。ブラック。
ネガティヴで痛い。
でもギャグマンガで絵は萌え系。そんなマンガです。

変な話ですが「まあカタギじゃないわな」「女子は読まんですね」とオタクの人たちが鼻で笑うような作風で、 オタク読者と連帯感を持ちつつ、そして背を向けつつ、否定しながら笑うといったスタンス・・・。
ギャグ漫画家の、最も傷が深くなりがちな生き方の一つです。まさに修羅道、けもの道といってよいです。

そんなまんが道を歩むことがどんなに険しいか、が金平さんの著作のあとがきから如実に分かります。

まず1巻(金平劇場)作品紹介あとがき。
「(略)「やろうとしていることはわかるんだけどねぇ〜」的な作品。かと言って、 私の今までの全ての作品に言えることだが、別に「実験的」な作品をかこうって気はまったくない。まともな作品がかけないだけなのだ(後略)。」
なんか同人誌の巻末の自作コメントみたいなノリですね。
稚拙なことを実験的、と言い換えている気がしないでもない部分はありますが・・・。でも意欲はアリアリです。

ところが初単行本から3年後、ものの見事に磨り減ってます。
3巻(カネヒラデスカ?)のあとがき。
「(略)あ〜あ。なんか、あとがきくらい真面目に書こうと思ってたのに、だんだん変な文章になってきちゃって、しかもギャグマンガ描いてるヤツって、語れば語るほど、ドツボにはまるんだよなぁ。正直、一発ネタで勝負じゃん? 後はなに言っても言い訳でしょ?(略)
だいたい、こんな文章のページもレイアウトに手間がかかるしメンドーだし、担当さんもあんまりいい顔しないんだよね。 だからって手書きにするとオレ中卒だから、漢字とかあんまりわかんなくて誤字だらけになっちゃって、それはそれで担当さんにチェックしてもらうの悪いし・・・。」
いばらの道を歩んでいっても、身体には重傷は負わない。でも皮膚は傷つき血は止まらない。そんな有様を感じさせます。

そしてラスト4巻(KANEHIRA-DEATH)のあとがき。長いですが。
「正直コミックビームに始めて掲載させてもらった頃は単行本が四冊も出るなんて思ってもいませんでした。
あと自分の作品があらゆる人から罵倒されるとも思ってませんでしたし・・・。
考えてみれば昔からいじめられっ子で自分をいじめてたヤツをマンガの中でコテンパンにするようなある意味正当派な(原文ママ)クソ野郎で、うれしくても素直に喜ばない、 かなしくても泣かない、くやしい時には自分の体を痛めつけることでクールダウンするという全く持って子供らしくない幼少期を過ごし、 まんま今に至っているわけでして、そんな人間の描くマンガにいわゆる友情だの努力だの勝利だのというテーマが含まれるわけもなく、 その結果今これを手にされた皆さんが読み終えたであろう短編群のような、読んでて何だか気分の悪くなる作品しかかけない人間になってしまっているわけです。

作品から受ける印象で作者である私の人となりを想像されている読者もおられると思いますが、この場を借りて私がどんな人間なのかを説明しておきましょう。

まず他人とのコミュニケーションは上手くとれません。
他人の顔色ばかりをうかがい、気は利かないくせに気疲れだけはするタイプです。あと感情をうまく表現できません。
それらモロモロのことが原因でよく頭痛や胃痛になります。 ・・・と、まあそういったヒッキーにありがちなタイプです。勿論童貞です。
以上のことを思い出しながらもう一度この本を読み返してみると、もう素直には読めないと思いますが・・・ まあいいです。(もしくはあなたの想像とおりでしたか?)そんなクソ虫の単行本を分かってて買ってくださったアナタに心から感謝します。」
さあ、どうですか? 何でマンガを読んだばっかりにこんなイヤな目に会わねばいけないのでしょう? これだけの萎えムード、盛り下げ空気を持つ漫画家さんて、本当にヤマイダレだったヒトくらいしか思いつきません。

ビームとかアフタヌーンなんかのマニア誌はこういうものをなぜか表現の一手段としてOKだしがちで、 こういうのもアリ、とするか、ナシ、にするかのライン引きがよその雑誌よりちょっと広いんですが、 こういうネガティヴで人をいやな気分にするもの自体、つまりは金平さんのネガティブ人格を消費すんのかしないのか、需要があるかないかはほんとうは別問題です。

なのでビームという雑誌に連載されず、一般層に引きずり出した時に受ける印象は一言、
「うーわ、イタい人」
だけではないでしょうか。
それを、
「うーん、一般ウケはしないだろうなあ、オレは好きだけど」
という良く分からない咀嚼をしてしまう人がいることで、金平さんの人格という余計なものまで消費されていくのです。

前項相原コージさんの時には、たとえ自虐ムードであっても、相原さん自身には「自虐な相原コージ」を消費してくれという信号はなかったのですが、 金平さんの重苦しい部分は、「そんなオレだけど消費してくれるよね?」「ホントのオレを分かって欲しい」という信号がビシバシ発せられている部分です。
そこが多分ツラさの根本なんでしょう。

作品的には本当に同人誌的で玉石混交ですが、オタクネタメインでブラックゆえに笑えるか笑えないかは個人差があります。
でも一つだけ、
「とりあえずものすごくイヤな気分になる」
ことだけは保障できます。
「なんか最近ハッピーすぎて毎日楽しくて仕方がないんだよね」
という人に捧げる強烈な鬱のビタミン注射。
それが金平守人さんです。

※この記事は2004年10月9日に掲載したものです。

(担当岩井)

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