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幻の漫画少年 全リスト

文・相澤亮一

「漫画少年」と私(11)
プライスメーカーという言葉を、よく耳にするが、古書の世界では、古い本に値段をつける人(査定業者)を指している。
今回も話題が脇道にそれて、道草を食うことになるが、古書漫画とプライスメーカーについて、中野書店とまんだらけを取り上げてみたい。
全国的に、現在もまだ漫画ブームが続いているが、古書の世界に漫画ブームを巻き起こした、いわゆるパイオニアは、東京神田の中野書店の店主(正式には社長)の中野実さんと言っても過言ではない。
昭和42年頃のことになるが、子どもの読物や、漫画、雑誌などを求めて、小生はよく東京古書会館の古書即売会に出かけた。
抽選で初めて当たったのは、戦前、講談社発行、山中峯太郎の「敵中横断三百里」だった。
古書会館の中には、古本漫画や雑誌など、子ども向けのものが結構ころがっていた。当時は商品価値が大変低く、誰も見向きもしなかったのである。
即売会初日の夕方に行っても、「漫画少年」(昭和23年や24年発行)や、手塚治虫の「新編・ふしぎ旅行記」上巻、下巻の揃い(昭和27年二月学童社発行)などが残っていて、手に入れたことがある。
値段も大変安く、「漫少」が一冊千円弱。「ふしぎ旅行記」が上・下揃いで八百円だった。
昭和50年五月発行の日本古書通信別冊「紙上古書展号」によれば、横井福次郎「痛快ターザン」(昭和25年光文社発行)が千五百円、手塚治虫の「鉄腕アトム」(光文社カッパコミック)二十冊一万円、「新宝島」(昭和22年育英出版発行)が一万二千円で出品されている。
当時の朝日新聞(昭和50年六月十八日)の記事を次に紹介しておく。
★一万二千円で”格安”
手塚治虫さんの古い漫画本が、古書界で大変高くなっている。一冊数万円もざらで先日、処女長編「新宝島」(22年刊)が一万二千円と”格安”で出て希望者が殺到、「セリなら十万円以上」のウワサも。 
熱狂的なファンが多いからで、それも高校生から二十歳代が中心。最近「虫の標本箱」という名で「漫画大学」など五冊が復刻されたが、一万二千円という値段なのに、限定五百部は、たちまち品切れ。
つづいて昭和50年代のこと。漫画の古本は破り捨てられたりして、「商品」としてまだ認識されていなかった頃のことである。
中野書店の店主、中野実さんが、手塚治虫の初期単行本幻の「新宝島」に二十五万円、「月世界紳士」「森の四剣士」「地底国の怪人」などをそれぞれ十五万円として、昭和51年六月の新宿小田急デパート展古書即売会に出品した。
少しずつではあるが売れていったようである。値づけの参考は、三島由紀夫の著書だったと聞いている。
最近は、漫画家・手塚治虫と文筆家・三島由紀夫は、「昭和の生んだ二つの才・手塚治虫と三島由紀夫」などとして対照的、対比的に紹介をした論文もあり、大変興味深くなっている。
手塚作品に光が当たり、その価値が見直されると、東京神田だけでなく、日本のここかしこで、漫画に火がつき大ブームになった。そしてほかの漫画作品の価値も、いやが上に高まっていった。
日本古来の文学作品に伍して、漫画も一つのジャンルが確立され、新しい分野を占めるようになる。そのようなわけで、漫画の古本を初めて本格的に扱った中野書店のおやじ(社長)さんこと、中野実さんの快挙をあらためて特筆させていただいた。
全国的にも漫画のファンが多くなり、漫画を扱う本屋もふえた。そして古本漫画屋さんは、人であふれるようになっていった。
漫画は日本を代表する文化の一つとして、国際的にも注目を集めており、戦後の出版文化を語るときに、漫画なしでは語れなくなっている。
ここで中野書店の感想を述べると、漫画でも読物でも、よく評価、査定されており、売買する人(客)が信頼、安心できる店と思う。いいものは(値段も)いい、と査定に納得の出来る店である。
中野書店は神田古書センターの二階、三階、五階にある。二回は漫画部、三回は古書部に分かれていて、、五階の奥には、おやじさん(社長)と二代目のとも(智之)さんがいる。
三階には商談などにも利用できる場所(いこいの席ともいえる)があり、しゃれた趣のコーナーであると思う。
また、近くに古本倶楽部も併設され、現代の古書店に昔かたぎの古本屋のよさを取り入れた経営方法である。店員一人一人の対応からしても、あたたかみを感じさせる古書店である。
さて、日本の漫画古書店を語るときに、絶対に欠かすことのできないのが、まんだらけである。社長は古川益三さんである。我が国に漫画ブームが続く最中に、まんだらけはプライスメーカーとして、古書漫画の世界に、もう一つ強烈なインパクトを与えた。
藤子不二雄のデビュー作「ユートピア」を発掘し、一大センセーションを巻き起こしたことはご存知でしょう。また最近は、朝日新聞社創設の手塚治虫文化賞選考委員の一人に選ばれ一層有名になっている。
漫画専門古本「まんだらけ」は中野ブロードウェイに店舗を構えており、大阪と渋谷に、名古屋、福岡の他に海外にも支店がある。
三階の入り口でカバン類を預けて店内に入る。そこは本店であり、約十万冊の古書などが並べられている。他の階に、社長室、編集部、ギャラリー、ヴィンテージ、スペシャル館、マニア館、変やなどの店舗がある。
昔からたたきあげた専門店としての古本屋ではなく、利潤追求の意味も含め、これまでの古本屋の概念を超えた新しい経営、新しいタイプの古本屋さんである。
漫画長屋的、もしくはデパート的な発想を取り入れたまんだらけ。古川社長は「最後の世界大戦」(副題「ユートピア」)は噂だけで、実際には存在しない本であると判断していた。
それ故、市場に出てくれば、価格は五十万円と考えていた。しかし今や、カバー付き美本はなんと三百万円という値がついている。日本に数冊しかない本だからである。
「ユートピア」の評価額は、五十万円、百万円、二百万円、二百五十万円、そして三百万円と移り変わった。
「ユートピア」の価格の変遷は、まんだらけの発展と共にあり、「ユートピア」は現存する古書漫画の最高峰にある。
ちなみに、手塚治虫の「新宝島」は二十五万円から始まり、現在は昭和22年六月発行の再販が八十万円、四月発行が百万円、同年一月発行が初版、美本ならば三百万円するという(しかし昭和22年一月発行初版美本は現存しているかどうか確認されていない)。(追記:最近確認され、五百万円の値がついている。)
「新宝島」の初版美本が見つかれば、「新宝島」と「ユートピア」が、古書漫画界の両横綱であり、その地位は永久に変わらないものと考える。
話題が変わって、最近感動したことを記してみたい。
まんだらけに雑誌を売りに行ったら八千円とのこと。二、三日して電話があり、査定変更で四千円を追加して貰った。
本屋さんが本を安く買い取ってしまい、改めて、丁重なお詫びと共に、代金を追加した例である。今までに、小生、そんな経験をついぞしたことがない。
古川社長のプライスメーカーとしての責務と、客を大事にするという信念に基づいた経営方針からきているものと推測する。
客はおそらく、次もまた、まんだらけに本を売りに行くのではないか。きっと、そうするだろうと思う。
古川社長のまんだらけ、ますます発展するぞうとだじゃれを思いついた次第である。
社長の新しい古書店経営の方針を受けとめて、店員や室長、店長などの有能なブレイン、編集に携わる各スタッフ、コスプレイヤーなど、それぞれがよく連携を保っている。
古本の売買など、従業員総勢約百五十名が真摯な態度で、客との対応に努めている。明るく、元気で、さわやかな、そんな雰囲気の古書店であり、マンガのデパート、マンダラケと呼びたい。
将来は、新宿に、漫画の王国(キングダム・マンダラケ)、漫画の「殿堂」(パレス・マンダラケ)設立も夢ではないと思う。
そうだ!それこそ本当の理想郷・ユートピアなのだ!(足塚不二雄作「ユートピア」)を最後に引用して、ペンを置きたい。

まんだらけ目録17号より

S29.05.20 5月号
「漫画教室」、「チョウチョウ交響曲」、「魔法の杖」などの漫画が引き続き連載されている。
映画、ディズニー制作「ドナルドの食糧難」、1頁漫画「鉄路の白バラ」(手塚治虫)、子供漫画家名簿「百人五首」(藤子不二雄)、 漫画訪問「はがまさお先生の巻」(坂本三郎)、「うさぎとかめの決勝戦」(もりやすじ)、「一米四方の冒険」(藤子不二雄)、
ホントカシラ博士「犬と猫と鼠」(寺田ヒロオ)、絵とき漫画「言葉と文字」(寺田ヒロオ)「うたさがしクイズ」(永田竹丸)、 特集「東京へ出てきた人たち」(寺田、坂本、永田、青鬼、赤鬼)。



S29.06.20 6月号
連載漫画「チョウチョウ交響曲」、「鉄ちゃん物語」等。
「豪勇金時」は連載終了となる。面白読切漫画「夏草物語」(手塚治虫)、ホントカシラ博士「七色の虹」(寺田ヒロオ)、 「海抜六千米の恐怖」(藤子不二雄)、「もし誰かがあそこへ行ったら」(寺田、坂本、永田、青鬼、赤鬼)、 1夏漫画「リリー」(古沢日出夫)、特集「漫画展」(寺田、坂本、青鬼、赤鬼)、第二回短編漫画新人王「月のうさぎ」(町野 巽)、 長編漫画第二席「けちんぼ太平記」(河本長鳩)、短編漫画第二席「クラスの人気者」(池上幸男)、 「漫画つうしんぼ」、「東西対抗」(構成 寺田ヒロオ)。



S29.07.20 7月号
次の時代を担ってたつ、はつらつとした新人漫画家を求めて、新人王漫画大募集を行ったり、積極的に投稿漫画家の作品を採用している。
「ウサギとカメ」、「二人の旅人」(楠 高治)、白い花のひみつ」、「えんどう豆のたび」(おだしょうじ)、 「探偵姉弟」(佐藤浩二)、「マユツバ大学教授 本戸頭博士・天狗」(寺田ヒロオ)、「漫画訪問・古沢日出夫先生」(坂本三郎)、 「漫画百人五首」(藤子不二雄)、「井上一雄傑作漫画集」、「武蔵と小次郎」(古沢日出夫)、 新連載「火の鳥」(手塚治虫)。



S29.08.20 8月号
「火の鳥」(手塚治虫)、「鉄ちゃん物語」、「母ちゃん」、「山猫少年」、「魔法の杖」(謝花凡太郎)、「とん平さん」(白路 徹)、 「荒野の歌」(瀬越 憲)、「ターザンの冒険」(横井福治郎)、「姥捨山物語」(有川旭一)、「長屋太平記」(内山安二)、 本戸頭博士「かみなりとへそ」(寺田ヒロオ)、「山は招く海は呼ぶ」(古沢日出夫)、「夏休みまんが日記帳」(寺田、永田、坂本)、 投稿「漫画つうしんぼ」、「東西対抗」(構成 寺田ヒロオ)など・・・。
このころから目次と掲載頁の合わない号が目立ってきた。



S29.08.31 増刊号
「摩天楼小僧」(手塚治虫)、少年クラブS.27年新年増刊号から再掲載。
ほかに「だんご仙人」(島田啓三)、「ドンマイくん」(福井英一)、「ふしぎなアコーデオン」(沢井一三郎)、 「奴の凧平」(林田 正)、「腕白タック」(松下井知夫)、「ギッタンとバッタン」(古沢日出夫)、 「カッパ太郎」、「愛犬クロ」、「狸御殿の親友」(はがまさお)、「おじいさん」(原 一司)、「こわれたバリカン(他)」(福井英一)、 「妹のお願い(他)」(滝沢みちこ)等。
再掲載作品の号である。



S29.09.20 9月号
福井先生のための東京児童漫画会特集。
福井先生傑作集「友情配達やさん」、「バット君」、「ドンマイ君」、「いがぐり君」、 「駒漫画傑作集」。
思い出のアルバム「さようなら福井先生」
座談会「福井先生をしのぶ」(高野よしてる、古沢日出夫、山根一二三、木村一郎、馬場のぼる、手塚治虫)「思い出の訪問来・福井英一先生」(坂本三郎)
「故福井先生へ」(愛読者 小野寺章太郎)
母ちゃん(芳賀まさお)終了。ほかの連載漫画は続く。
ホントカシラ博士「からす」寺田ヒロオ、「里芋」(棚下照生)、 表紙は「お月見と天国の福井先生を偲んで」(沢井一三郎)